「もし、永久歯が再生可能だったら」と考えたことはありませんか?6歳から12歳頃までにじっくり時間をかけて生え揃う永久歯は、たった1回しか生えてきません。虫歯になったりして失うと、もう二度と手に入りません。何とかならないものでしょうか・・・もしかしたら、「何とかなる」可能性が出てきました。
米ジョージア工科大学のトッド・ストリールマン教授らの研究グループは、アフリカ東南部のマラウイ湖に生息する淡水魚「シクリッド」に関する研究を行っています。この熱帯魚のようなカラフルな魚の歯は、一生のうちに何度でも生えかわることができるのです。
研究グループは、シクリッドの受精後から魚体が形成されるまでの発生の過程を研究したところ、味覚を感じる「味蕾」と「歯」が同じ細胞から作られることを発見しました。いずれも口の中の上皮細胞として出現し、ある時点で味蕾と歯のどちらかの組織に分かれるという。
シクリッド(Wikipedia)
シクリッドは受精後の胚が分裂しはじめてから5、6日後、まだアゴの形成が途上の段階において、上皮細胞が味蕾と歯に分かれます。
ストリールマン教授は「この時点のどこかで味蕾になるか歯になるかという、上皮細胞の進路先を決めるスイッチが入っていることは明らか」としています。
もしこの「スイッチ」の正体を解明できたなら、人間の口の中から採取した上皮細胞を歯の組織に発達させることができる可能性があるというわけです。
もちろん、スイッチが入った後の段階についても研究することは山ほどありますが、いずれにしろ、思い通りに歯を再生するための一歩であるといえるかも知れません。
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近年はオーラルケアの意識も高まり、またケア製品もより良いものが開発されることで、歯の健康寿命も長くなってきています。しかしそれでも、一生の間、自分の歯を守り通せる人はまれではないかと思います。
将来、もし自分の歯を虫歯などで失ったとしても、自分の細胞から作られた歯を自由に再生させることが可能な時代が訪れるかも知れません。
Coevolutionary patterning of teeth and taste buds
(via TOCANA image by Mandy Jouan)