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査読システムの乗っ取りによる論文の不正投稿が相次ぐ、その手口とは?

論文不正

STAP細胞をはじめ、論文不正の問題が多発して社会問題ともなっていますが、最近ではデータのねつ造ではなく、「査読システムの乗っ取り」による不正な投稿論文がアジアを中心に増えているそうです。いったいどのような手口なのでしょうか。




研究成果は、論文にまとめて学術誌に掲載されなければ業績として認められません。研究者であれば1本でも多く論文を発表したいと思うところですが、ほとんどの学術誌は質を確保するために専門家による査読を行い、掲載するに値する論文かどうか、そして必要なデータが示されているかを判断しています。

査読システム乗っ取り

学術誌に論文を投稿する際、投稿者は査読を依頼する専門家の候補を推薦することができますが、このときにネット上で誰でも取得できるメールアドレスを連絡先として架空の専門家を偽装するという。

学術誌の編集者は偽者と知らずに査読の依頼をしますが、実際には著者らが依頼のメールを受け取り、自分の論文に都合のよい査読コメントを送り返します。そして次々とアクセプトを獲得していきます。

意外にも非常に安易なやり口ですが、査読依頼はメールのみで済ませてしまい、推薦された専門家の素性について詳しく調べないことも多いからこそ成り立つ乗っ取り方法なわけです。

作業の効率化のため編集を外部の大学教授などに委託するケースもあり、偽者をつかまされる危険性を高めているという問題もあるとのこと。

乗っ取り事件はアジアで多い

この手口による不正が最初に発覚したのは、2012年に中国・貴陽中医学院に所属する研究者がミニブタのクローニングに関してまとめた論文だという説があります。同年には韓国の研究者による同様の不正事件が発覚して、30本を超える論文の撤回へと広がりました。

13年には台湾・屏東教育大の研究者が投稿した論文で発覚、60本が撤回に。130本ものメールアドレスが取得され、査読依頼が論文の著者やその仲間に送信され、次々と論文が受理されたという。

日本の研究者による同様の投稿不正は今のところ明るみに出ていませんが、もしかすると発覚していないだけで横行している可能性は否定できません。

査読不正に業者も参入

さらには、査読不正を狙ったビジネスまで生まれました。論文作成を支援する業者が、投稿段階では好意的な査読コメントを著者に販売するという。至れり尽くせりのサービスとも言えます。

この問題に関連して、独出版大手のシュプリンガーグループは昨年8月、10誌で計64本の論文を撤回すると発表しました。同社のウィリアム・カーティス副社長は「査読者の身分確認の徹底が重要」との見解を示しており、今後は推薦査読者の「研究機関のメールアドレス」や「スコーパスID」を要求するなどの対策を明らかにしています。

(via 産経新聞 image by janneke staaks