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脳は不老長寿の組織である

どれほど健康に気をつかっても人は老化します。ところが、唯一、年をとらない組織があるのです。それは「脳」です。




年をとる、言い換えると「老化する」とはどういうことでしょうか。目に見える形としては皮膚のツヤがなくなったり、白髪になったり、皺ができたり。そのほか筋力が低下したり運動能力が落ちたり、目や耳の能力が低下したりすることもあるでしょう。

人間のからだはすべて細胞からできていますから、これらの現象を突き詰めて考えてみると、「細胞の老化」ともいえます。しかし細胞は日々生まれ変わっています。常に細胞は増殖を繰り返し、傷ついた細胞は自ら死を選びます。そうすると細胞は常にフレッシュな状態を保っているのではないか?いや、そうもいかないわけです。

細胞は分裂する際、自分と同じものを複製していきますが、常に完璧に同じ細胞を複製できるわけではありません。細胞はDNAで制御されていますが、DNAは複製される際、ある程度エラーが含まれます。つまり細胞が増殖を繰り返すに従い、DNAにダメージが蓄積されていくわけです。

ところが、まったく事情が違う組織が人間の体には一箇所だけあります。それは「脳」です。

脳を形成する神経細胞「ニューロン」が盛んに分裂を繰り返すのは3歳ぐらいまでだといわれています。その後は増殖をストップし、死ぬまでずっと同じ細胞が生き続けるわけです。(※正確には、心筋細胞なども分裂を停止しています)

神経細胞が他の多くの細胞のように分裂増殖をしない理由としては、神経細胞の機能にある「記憶の蓄積」という特殊性が挙げられますが、はっきりとは分かっていません。

神経細胞が分裂をせず同じ細胞が生き続けることは、ある見方では、他の細胞のように生まれ変わることができないため「老化していく」とも考えられます。一方、もう一つの見方では、上述したとおり、「分裂によるDNAへのダメージの蓄積」が発生しないため、若いまま持続することができるとも考えられるでしょう。

しかしながら、神経細胞は分裂によって新しくすることができないわけですから、一度、病気になってしまうとその細胞はもう諦めるしかありません。一度、虫歯になってしまうと交換ができない「永久歯」に似ています。

しかし病気にならなければ、脳は若いまま維持することができます。いやむしろ、年齢とともに学習によってシナプスの結合が増加します。

このように脳には、からだのほかの部分とは全く異なる事情があるのです。

ひとつ、面白い研究結果があります。

マウスの胚から神経前駆細胞を取り出して、ラットの神経システムに移植するという実験を行いました。神経前駆細胞とは、分化して最終的な神経細胞になる前段階の細胞のことです。

この研究のポイントは、ラットはマウスの2倍の寿命をもつということです。実験の結果、この移植された細胞はラットが死ぬまで完璧に生きていたということです。つまりマウスの神経細胞は本来の寿命の2倍の年月を生き抜いたということです。

しかし神経細胞を損傷する要因にさらされる時間が長くなると、その損傷は蓄積されます。アルツハイマー病などの疾患は現時点ではまだ確実な治療法が確立されていません。神経細胞は傷ついても交換ができません。できる限り脳が健康でいられる生活習慣を心がけなければなりませんね。