アルツハイマー病に関する最新の研究によると、実は脳が感染症と戦った結果である可能性が示唆されたそうです。アルツハイマー病の原因とされてきたタンパク質「アミロイドベータ」の意味合いも全く異なることになるおそれがあります。
アルツハイマー病患者の脳を調べてみると、アミロイドベータ(Aβ)の凝集物が見られます。このタンパク質は40ほどのアミノ酸からなる小さなものですが、そもそもこのタンパク質は何のために産生されるのでしょうか。
マウスと線虫にAβを過剰産生させる実験
ハーバード大学の研究グループは、アミロイドベータを過剰に産生するように遺伝子を操作したマウスと普通のマウスのそれぞれに、致死量の細菌を脳に入れました。
その結果、アミロイドベータが過剰になるマウスでは、アルツハイマー病患者に見られるようなタンパク質のプラークを形成し、その中に「細菌が閉じ込められている」ことがわかりました。一方、普通のマウスではプラークは形成されず、致死量の細菌によって死んでしまったという。
研究グループは線虫を使っても同様の実験をしました。細菌や酵母を線虫に注入したところ、マウスの実験と同様にアミロイドベータを過剰に産生する個体のほうが長く生き延びたといいます。
アミロイドベータは、脳の感染症に対抗するために必要なタンパク質であり、アミロイドベータが形成する凝集物は、細菌などの病原体と戦った結果なのでしょうか。
アルツハイマー病患者の脳に真菌感染の痕跡
スペインの研究グループは、アルツハイマー病が真菌性疾患であるとする研究結果を報告しています。
研究グループは、11人の患者の遺体について脳組織と脳血管を調べました。すると、これらの組織に数種類の真菌の細胞や関連する物質を検出しました。
興味深いことに、調べた11人の遺体すべてで検出されたものの、アルツハイマー病にかかっていない対照群では検出されませんでした。
真菌に感染した場合、病気の進行がゆっくりであったり炎症反応がみられるなど、アルツハイマー病の特徴と当てはまるのだという。
ほかの研究でも、ウイルスや細菌に由来するDNAがアルツハイマー病患者の脳内で発見された例もあり、ヘルペスや肺炎を起こすウイルスがアルツハイマー病の「病原体」である可能性も指摘されています。
アルツハイマー病患者は、ヘルペスウイルスの抗体値が高いという研究結果もあるのだという。
古細菌の感染で認知症の症状
一方、アルツハイマー病の例とは少し違いますが、鹿児島大の研究グループが認知症の症状を発症する患者の脳で「古細菌」の感染を確認したとの研究結果を発表しています。
2005~12年に認知症が進行する南九州の40~70歳代の男女4人を調べたところ、脳や脊髄に炎症があることがMRI検査でわかりました。
脳組織の一部について顕微鏡で調べたところ、核や細胞壁をもたない未知の微生物が血管周辺に集まっていました。そこでDNAを調べたところ、古細菌の一種「高度好塩菌」と似た配列が多数見つかり、形状などから新種の古細菌と判断したそうです。抗菌薬を使ったところ、患者らは症状が改善したという。
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アミロイドベータのプラークが病原体と戦った痕跡であるとする説は、非常に興味深いとして関心を示す研究者も多くいるという。まだ仮説に過ぎないとはいえ、もし本当であれば今後の治療方針も大きく変えてしまう可能性があり、今後の研究の行方はとても興味深いものです。