鳥や魚、昆虫などには地球の磁場を感じるコンパスが備わっていると言われています。哺乳類でもウシやシカなどがもつと言われますが、なんと人間にも磁場をとらえる能力があると、カリフォルニア工科大学の研究グループが主張しています。
磁場に脳が反応した
研究グループは、外部からの電場を遮った特別な空間に被験者を座らせて、発生させた磁場に対する脳の反応を調べました。
その結果、「磁場が反時計回りに回転するとアルファ波が減少する」現象を観察することに成功しました。この実験結果は、磁場に対して被験者の脳が反応して興奮したことを示しているのだという。
磁覚を備えている動物たち
動物には視覚や聴覚、嗅覚、味覚、触覚などの感覚がありますが、磁場を感じる能力については「磁覚」と呼ばれています。
磁覚は、磁場の方向や強さをとらえる能力で、動物が自分のいる場所を把握するために使用されます。
渡り鳥が正確な飛行ルートをたどることができるのは磁覚のおかげだという説があったり、最近ではウシやシカの群れを衛星写真で見てみると「体を南北方向に向ける」傾向があることがわかったという。
一方、イヌもまた、自由に排泄する際には南北方向に体を向けることを好むとの研究結果が発表されています。
動物たちが南北方向に体の軸を合わせる理由についてはよくわかっていないようです。
どのようにして磁覚を得ているのか
磁覚を身につけているメカニズムについては諸説あるようです。
1つは、網膜にある青色光の受容体である「クリプトクロム」が磁覚にも関係しているとする説です。このタンパク質は植物にも存在しており、概日リズムの調節などにも関与しています。
光が目に入るとクリプトクロムに形成されている電子対が散らばり、これが磁場に反応して回転することで、磁場の変化をとらえているという説です。
他にも、強い磁性をもつ「マグネタイト(磁鉄鉱)」を体内に持っているとう説があります。これが「コンパスの針」として機能するのだという。カリフォルニア工科大学の研究グループは、こちらの説に基づいて人間にも磁覚があると主張しています。
磁覚をもつラットを生み出す実験
磁場を感じるセンサーさえ持っていれば、はたして本当に自分の場所の判断に役立てることができるのでしょうか。
これについては、東京大の池谷裕二教授らの研究グループが興味深い研究を行っています。
研究グループは、目の見えないラットの頭に「方位磁石を含むセンサー」を取り付けました。センサーからの信号は脳内の2カ所に伝わり、ラットが北を向くと脳の右側が刺激され、南を向くと左側が刺激されます。
この目の見えないラットと正常なラットを使って迷路で餌を探させる実験を行いました。最初はどちらのラットも餌の発見に70~90秒かかりましたが、訓練後はどちらのラットも約20秒ほどで探すことができるようになりました。
一方、目が見えずセンサーも付けていないラットは訓練しても餌の発見までの時間は短縮されませんでした。
さらに、センサーを取り付けたラットは訓練後、磁気情報を与えなくても餌の場所にすぐにたどり着けるようになったそうです。
これらの実験から、磁気センサーを取り付けたラットは目が見えなくても磁気の情報から方角を判断できるようになり、正常なラットと同じように学習効果も得られたことを示しています。
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生物に備わっている磁覚の研究については、まだまだ不明な点が多いのが現状です。しかし、動物のみならず、磁覚をもつ微生物「走磁性細菌」も存在していることから、案外、磁覚というのは生物本来に備わっている大事な感覚なのかも知れません。