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水戸市で「ヒグマ」肉を食べて集団食中毒、原因となった旋毛虫とは?その予防法や症状とは?

昨日、茨城県にある飲食店で「ヒグマ」の肉を食べたことによって集団食中毒が発生しました。原因となったのは「旋毛虫」という寄生虫で、日本国内での発生は35年ぶりだという。いったいどのような寄生虫で、どういった症状が起きるのでしょうか。




水戸市で発生した集団食中毒

集団食中毒が起きたのは茨城県水戸市にあるイタリア料理店でした。報道によると、ヒグマの肉を使った料理を食べた20代から50代の男女15人が発疹や発熱などの症状を起こしたという。

連絡を受けた水戸保健所が調べたところ、料理に使われた熊肉から「旋毛虫」を検出、症状も合致することから、この寄生虫による集団食中毒と断定されました。

熊肉を使った料理は11月下旬から12月上旬にかけて提供され、料理店の経営者も含めて27人が食べました。そのうち15人が症状を訴えて医療機関を受診しました。

提供された料理は「熊肉のロースト」とのことですが、いったいなぜイタリア料理店で熊肉を出したのでしょうか。どうやら、この料理店の常連客の一人が北海道で捕獲された野生のヒグマの肉を入手したものを、自宅で網焼きにして店に持ち込んだようです。

幸いにも患者の命には別条はないとのことですが、料理店は営業禁止処分となりました。

原因となった旋毛虫による食中毒は1981年に三重県で発生して以来、35年ぶりだという。比較的めずらしい食中毒のようですが、いったいどのような食中毒なのでしょうか。

旋毛虫とはどのような寄生虫なのか

旋毛虫は「トリヒナ」とも呼ばれる寄生虫で、豚などの家畜のほか、さまざあな哺乳類、鳥類、さらには爬虫類にも寄生します。生息域も非常に広く、南極大陸以外なら地球上のすべての陸地をカバーするといわれています。

感染は、旋毛虫の幼虫を含んだ肉を食べることで起こります。旋毛虫の幼虫はコラーゲンのカプセル(シスト)に包まれた「被嚢幼虫」という状態で筋肉の中に隠れていますが、この肉を食べることで胃の中で消化されると、幼虫がシストから出てきて活動を開始します。

シストから出てきた幼虫は小腸の粘膜の中に入り込み、その後30時間以内に成虫になります。オスの成虫はメスとの交尾後に死にますが、メスの成虫は4~6週間のうちに500から1500ほどの幼虫を生みます。

新たに生まれた幼虫は活発に動く筋肉を好むため、血流に乗って全身を回る間に、舌や顎、横隔膜、手足など、あるいは目の筋肉などに行き着いてシストに包まれた状態になります。

シストに包まれた被嚢幼虫の寿命はブタの場合は11年、ヒトだと25年にも達することがあるという。

被嚢幼虫に汚染される動物としてはブタのほか、クマやキツネ、オオカミ、ネズミなどの野生動物や、ネコ、イヌも含まれます。さらにはアザラシやセイウチなど水棲の動物も挙げられます。

これらの動物の汚染された肉を食べることで、さらに感染が広がっていきます。

旋毛虫症の症状について

小腸で幼虫から成虫に成長した旋毛虫は、まず小腸の粘膜に寄生します(腸トリヒナ)。このときの症状としては、吐き気や下痢、腹痛などが挙げられます。

腸内で新たに生まれた幼虫は血流に乗って全身に回りますが、これらは全身の筋肉に達して被嚢幼虫となります(筋肉トリヒナ)。このときの症状としては、筋肉痛や発熱、悪寒、浮腫などです。

このように、腸トリヒナの時期と筋肉トリヒナの時期で症状が異なりますが、旋毛虫症の病原性の点では筋肉トリヒナの方が重要になってきます。

もし、摂取した幼虫の数が多い場合は筋肉トリヒナの数も多くなり、症状も重くなります。最悪の場合は感染後4~6週間後に呼吸麻痺を引き起こして死に至るケースもあります。

旋毛虫症を防ぐにはどうすればよいか

旋毛虫はさまざまな動物に広く感染する寄生虫です。特に野生動物を料理する場合は、どのようなケースであっても生で食べるべきではなく、また不十分な加熱処理では感染のリスクがあります。

旋毛虫は比較的冷凍に強い寄生虫です。特に、熊肉に感染している旋毛虫は凍結に耐性をもつ種類であるとされており、凍結保存後であっても十分に加熱調理をする必要があります。

日本国内では1981年12月から82年1月にかけて三重県四日市市の旅館で大規模な集団食中毒が発生しました。

このときはツキノワグマの冷凍肉のサシミを食べた413人中172人が、発疹、顔面浮腫、筋肉痛、倦怠感などの症状を訴えました。冷凍肉から旋毛虫が検出され、サシミを食べた60人で旋毛虫に対する抗体に陽性反応が出ました。

ツキノワグマは京都府や兵庫県で捕獲されたもので、仕入れ業者は解体から販売時まで―27で保存していました。これを仕入れた旅館でもさらに―15度で保存した後にサシミとして提供しましたが、大規模な集団食中毒が発生しました。

このように旋毛虫は冷凍に強いため、十分な加熱処理をしなければ感染を予防することはできないわけです。

米疾病対策センター(CDC)は、肉の中心部の温度が1分以上の時間、71度以上に達するように加熱するようすすめています。

生肉の赤色が中心部も含めて全体が暗い灰色に変わる程度が加熱のひとつの目安になります。しかし、クマなどの野生動物の肉の場合は生肉が黒っぽいため、肉色の変化では判断が難しいケースもあります。

十分に加熱処理することで感染リスクを減らすことはできますが、基本的には野生動物の肉を料理する場合はこのような寄生虫の感染リスクがあることを、十分に理解することが必要です。

参考:読売新聞・スポニチ・横浜市衛生研究所・食品安全委員会