一般的に「うつ病」と呼ばれている病気のなかでも、とくに治療が必要な典型的なものは「大うつ病性障害」と言います。気分が落ち込んだり、興味や関心が低下するなどの症状に加えて、記憶や学習などの認知機能までもが低下します。近年、この大うつ病性障害と肥満とでは共通の病態があることが指摘されていました。
そこで国立精神・神経医療研究センターの研究グループは、うつ病患者の認知機能や脳の構造に対して、肥満がどのように関与しているかについて検討しました。
研究では、65歳未満の大うつ病性障害の患者と健常者を対象として認知機能や脳の灰白質・白質の構造に与える肥満の影響を調べました。体格指数BMIが30以上の場合を肥満患者として、その他の人と比較しました。
研究の結果、まず大うつ病性障害では健常者と比べて肥満や過体重、体重不足の割合が高くなっていました。
大うつ病性障害患者と健常者で認知機能のスコアを比較したところ、患者では有意にスコアが低いことがわかりました。また、大うつ病性障害では肥満患者の認知機能スコアが有意に低下していました。
一方、健常者とBMIの関係を調べたところ、BMI30以上の肥満だけが認知機能が低いというよりは、BMIが体重不足→正常体重→過体重→肥満と高くなるにつれて認知機能が低下する傾向がみられました。
MRIの画像解析で脳の構造を調べたところ、大うつ病性障害患者のうち肥満患者では灰白質の体積や白質の神経結合が低下している領域がみられました。
研究の結果をまとめると、大うつ病性障害は健常者と比べて認知機能が低下すること、さらにこの機能低下はとくに肥満患者では強いことが明らかになりました。
また、MRIによる脳画像を検討したところ、認知機能の基盤となる脳の構造において傷害が起きている可能性が示唆されました。