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高強度インターバル運動によって脳機能を向上させることができる

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からだの健康維持、または向上のために習慣的な運動がよいのはよく知られたことです。中でも最近では「高強度インターバル運動」の効果が話題になっています。高強度インターバル運動は、身体の健康だけではなく「認知機能」の向上にも効果があることが実験で明らかになってきています。




高強度インターバル運動によって脳機能を向上

習慣的な運動は身体の健康のほか、記憶力や注意力、判断力など脳機能にもよい効果があることが明らかになってきており、認知症の予防策としても注目を集めています。

運動内容としてはこれまで、ややきつめと感じる程度「中強度」の運動がよいとされてきました。しかし運動時間が長いことや運動自体が楽しくないなど、なかなか習慣的に行うことが難しい点が課題です。

しかし最近では、同じく運動効果が得られる方法として「高強度インターバル運動」が注目を浴びています。

この運動は高い強度の運動と休息を組み合わせた方法で、「中強度の長時間な運動」と比べて短い運動で、かつ楽しく運動ができて、そして同等かそれ以上に持続体力の増進や筋肥大が得られることが明らかになってきました。

そしてさらに、高強度インターバル運動は脳機能に対しても、同様に効果が得られることが実験によって確認されました。

実験による証明

実験では、日ごろ運動習慣がない25名の健康なひとを対象に行われました。高強度インターバル運動とは、高強度の運動と休息を交互に行う運動方法です。高強度の運動は、実験前に参加者の「最大有酸素運動力」いわゆるMAPを計算して、その60%の運動量としました。

2分間のウォーミングアップの後、MAPの60%負荷となる自転車こぎ運動を30秒間、そして休息30秒間を交互に8セット繰り返します。運動時間は全体で6分ほどです。

脳機能の測定には、「ストループ課題」と呼ばれる方法が用いられています。

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ストループテスト(中央大学)

ストループ課題とは、色と意味が異なる「色文字」を見たときに、意味に対する反応が優先的に起こってしまい、色に対する反応が遅れてしまう「ストループ干渉」を利用した認知テストのことです。

モニター上に、上段には色文字を、下段には単語を示して、それらが一致するかどうかを判断するテストを行います。中立課題、一致課題、不一致課題の順に難易度は増していきます。

不一致課題ではストループ干渉が生じてしまいますが、不一致課題と中立課題の成績の差から、ストループ干渉を処理する能力が測定できます。

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実験プロトコル(中央大学)

実験前と実験後にストループ課題を行い、それらの成績を比較しました。その結果、高強度インターバル運動を行った後ではストループテストに回答する時間が短くなっており、すなわちストループ干渉を処理する能力が向上することが明らかになりました。

一方、対照実験として運動を行わなかった場合ではストループテストの成績が向上しないことも確認されています。

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ストループ干渉による反応時間の差(中央大学)

では、実際に脳のどの部分の活性が変化したのでしょうか。これについても実験で明らかにされており、課題中に前頭前野の外側部を覆う光トポグラフィを装着することで確かめられました。光トポグラフィでは、脳活動を示す指標として酸素化ヘモグロビンの濃度変化が用いられています。

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課題成績及び光トポグラフィーデータ(中央大学)

計測の結果、運動後には左の前頭前野背外側部の活動が高まっていることがわかります。この変化は運動後のストループテストの成績向上と関連することが確認されました。

つまり、高強度インターバル運動によって脳の特定の部位の活動が活発になり、それによって脳機能が向上することが実験によって証明されたわけです。

この実験によってわかったことは、低・中強度の長時間の持続運動だけではなく、高強度インターバル形式の運動によっても認知能力の向上に効果があるということです。

長時間の持続運動を習慣にするのは時間的にも難しい場合、かわりに高強度インターバル運動を習慣化することで、体力増進、そして脳機能を向上させることができる可能性があることがわかりました。