われわれ人類、つまり「ホモ・サピエンス」はどのように進化してきたのか。かつては、ネアンデルタール人から進化を経て生まれたと解釈されていましたが、現在では両者は5千年もの間、はヨーロッパにおいて共存していたと考えられています。今から、およそ4万年前のことです。
しかしその後、ネアンデルタール人は絶滅してしまい、ホモ・サピエンスのみが生き残って現在にいたっています。一部では混血もあったことがわかってきましたが、両者の運命を決定づけた要因は何なのでしょうか。
慶應義塾大学の研究グループは、ネアンデルタール人とその時代のホモ・サピエンス頭蓋骨を分析して、脳の形態を復元しました。
その結果、両者の間で脳全体の大きさには大きな違いがなかったものの、ネアンデルタール人の方が「小脳」の大きさが小さいことがわかりました。
小脳とは、後頭部のあたりに位置しているカリフラワーのような形をした脳の部位です。大きさとしては脳全体のおよそ1割ほどを占める器官ですが、大脳とくらべて数多くの神経細胞があるとされています。
小脳の機能としては、知覚と運動機能の統合であることが知られていますが、最近の研究ではより高次な機能をもっていると考えられる証拠が発見されてきています。
研究グループは、小脳の相対容量が言語の理解やワーキングメモリなど高度な認知能力と関係することを現代人のデータを使って分析しています。
今からおよそ4万年前、ヨーロッパにおいてネアンデルタール人とホモ・サイエンスは出会いました。比較的長い期間を共存していた両者の間でその後の命運を分けたのは、「小脳の大きさ」であった可能性があります。