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高齢者は赤信号が続くとイライラしやすいことが判明する

高齢者と若者を対象に運転シュミレーターの実験をしたところ、高齢者は赤信号が連続して続くと怒りを感じることが、心理実験や脳計測によって明らかになりました。また、実行機能が弱い高齢者ほど怒りやすいことも判明したようです。




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実験状況のイメージ図(名古屋大学)

最近は、「あおり運転」などのトラブルが社会問題化しています。自動車を運転しているときは、どうやら日常のほかの場面と比べて怒りを感じやすくなることが報告されています。それと同時に、怒りを感じることが多いドライバーの方が危険運転をしやすい傾向があることも明らかになっています。

ところで、近年は高齢者による交通事故も増加しています。昨年は道路交通法が改正されて75歳以上の高齢運転者による検査や診断が義務づけられましたが、明確に認知症の兆しがなくても判断や運動能力は高齢化に伴って低下し、さまざまな抑制機能も弱まってきます。

高齢者は違法運転などを目撃したときに怒りを感じやすい、運転歴が長くなるほど運転中に怒りを感じやすいなどの報告がありますが、高齢化に伴う抑制機能の低下、運転と怒りの感情の関係などについて詳しい研究はありませんでした。

そこで今回、名古屋大学の研究グループは運転シミュレーターを使って高齢者と若者を対象としたある実験を行いました。

運転シミュレーションの実験

実験では、超大型モニターを使って全長4~6.2kmの一般道路を再現して、6機の信号機を通過する運転シミュレーションを行いました。

実験では、最初の4つについて青のままで通過できる条件と、赤信号によって連続して停止しなければならない条件で走行してもらいました。

いずれの条件でも、その後の2つの信号機では近づくと黄色になり、停止しました。

走行の前後で、そのとき感じている攻撃性の程度などを点数で回答してもらい、さらに近赤外光脳計測装置によって脳内の酸化ヘモグロビン量の変化を測定しました。

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実験手続きの概要(名古屋大学)

高齢者は怒りやすい

実験の結果、高齢者の場合は赤信号が続く条件で走行した後に「怒り行動尺度」の得点が安静状態と比べて高くなることがわかりました。一方、このような変化は若者ではみられませんでした。

また、高齢者では赤信号と黄色信号で停止しているときに、左前頭葉の酸化ヘモグロビン量が右前頭葉よりも増えることがわかりました。一方、若者ではこのような変化はみられませんでした。

酸化ヘモグロビン量の変化は、すなわち血流量の変化を表しており、その部位が活性化していることを示しています。

左前頭葉の活動が右前頭葉よりも活性化するのは、怒りを反映することがこれまでの研究からわかっています。

今回の実験からは、「高齢者は赤信号で連続して停止しなければならないと怒りを感じる」ということがわかったわけです。さらに、高齢者では赤信号の次の黄色信号でも怒りを持続していたことが示されています。

実行機能の低下と怒り

また、実験前に前頭葉の実行機能を評価する検査を実施したところ、赤信号での酸化ヘモグロビン量の変化量や「怒り」との相関が確認されています。

実行機能とは、やりかかった行動を抑制したり、別の作業に切り替えたり、記憶情報を更新するなど、目標に向けた行動を抑制する認知機能のことをいいます。これらの脳機能の多くが前頭葉皮質にあることがわかっています。

今回の実験から、実行機能が弱い高齢者ほど赤信号でヘモグロビン値が高くなり、攻撃性も高くなりました。つまり前頭葉の実行機能が弱いほど怒りやすいということが判明したわけです。

近年は高齢者の交通事故が多発しています。交通事故は運転中のイライラによって発生しやすいことも事実です。

今回の研究から高齢者は運転中に怒りやすいことがわかりましたが、今後はどのようにすれば怒りを抑えることができるかが明らかになれば、交通事故の発生を抑制することにもつながるでしょう。