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軽度認知障害で認知機能低下を進行する因子を特定、特に女性は進行が速い

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軽度認知障害で、認知機能の低下の進行に関係する因子を東京大学の研究グループが解明しています。性差や教育歴などが影響をもつことが明らかになっています。




認知機能が同年齢と比べて低下しているものの、日常生活では自立している状態を軽度認知障害と呼んでいます。認知症の前段階と考えられていますが、日常生活では援助が必要な認知症とは区別されています。

2008年から日本国内ではじまった大規模研究「J-ADNI」では、認知機能の低下が進行していく過程を追跡して、どのような人が認知機能の低下が進行しやすいかを検討してきました。

J-ADNI研究では234名の「物忘れ」を主体とする軽度認知障害の認知機能について最長で3年間にわたって追跡されました。

そのなかで、認知機能の低下に関係する要素をさまざまな角度から検討したところ、女性の被験者の認知機能は男性と比べてはやく悪化していることが明らかになりました。

これまでの研究からアルツハイマー病など進行性の疾患が原因としてある場合は認知症へと進行する危険が高いとされています。

しかし今回の研究の結果においては、女性が早く悪化する原因としてアルツハイマー病の患者が多く含まれていることが原因ではないことが確認されています。

一方で、女性の軽度認知障害の人が悪化しやすい要因としては、慢性腎臓病のグレードが高いことが見出されています。

その理由として、長年の高血圧や動脈硬化によって脳の小血管の障害が認知機能障害の進行に関係するのではないかとしています。

また、教育年数の比較からは、大学卒業以上の教育を受けた人の進行が遅いことも明らかになりました。ただし、この解析結果は男性のみで認められたとしています。

これについて研究グループは、男性では教育年数が長いことで「認知予備脳」が培われた可能性が示されたとしています。

認知予備脳とは、脳に生じた病理学的な変化に抵抗するための認知機能の予備能力のことです。つまり、脳の障害が多少あったとしても症状を出さずにいる能力のことをいいます。

研究グループは、このような研究結果は北米の研究データを解析しても得られなかったとしています。

そのため、日本人では高血圧や糖尿病、脂質異常症など生活習慣病の改善が軽度認知障害から認知症への移行の抑制には重要であり、さらにその効果は女性では特に重要であることがわかりました。