
九州大学とドイツ・フライブルク大学の国際共同研究チームは、脳の免疫細胞である「ミクログリア」が、神経細胞の脂質代謝を助けていることを世界で初めて発見しました。この研究は、脳内の細胞がどのように協力し、機能を維持しているかという長年の謎に迫るもので、難病の新しい治療法開発につながると期待されています。
脳は複雑なシステムであり、神経細胞だけでなく、多様な細胞が連携して働いています。しかし、その細胞同士がどのように情報をやり取りし、脳全体の健康を保っているのかは、これまで十分に解明されていませんでした。
研究チームは、最新の解析技術と特殊な遺伝子改変マウスを用いて、ミクログリアが分泌する特殊な酵素「β-ヘキソサミニダーゼ(HEX)」が、神経細胞に取り込まれることを突き止めました。この酵素は、神経細胞内の不要な物質である糖脂質「GM2ガングリオシド」を分解するのを助ける役割を担っています。
この発見は、遺伝子の異常によってHEXが正常に機能しない難病「サンドホフ病」の病態を理解する上で重要な鍵となりました。サンドホフ病の患者やモデルマウスでは、HEXが不足することでGM2ガングリオシドが神経細胞に異常に蓄積します。
研究チームは、この蓄積が単に神経細胞を傷つけるだけでなく、蓄積した物質がミクログリアを過剰に刺激し、炎症反応を引き起こすことを明らかにしました。この炎症がさらに神経変性を加速させるという、細胞間の悪循環が起きていたのです。
さらに研究チームは、サンドホフ病のマウスに、正常な機能を持つ「ミクログリア様細胞」を導入する実験を行いました。その結果、この悪循環が断ち切られ、神経機能が回復することが確認されました。これは、ミクログリアを活用した新しい治療法、「ミクログリア置換療法」が有効である可能性を示唆しています。
今回の成果は、脳における免疫細胞と神経細胞の新しい協力メカニズムを明らかにしただけでなく、ミクログリアが機能不全に陥ることが神経疾患の原因となるという「ミクログリオパチー」という新しい病態概念を提示しました。
この画期的な研究は、これまで有効な治療法がなかったサンドホフ病をはじめとする難治性の神経疾患に対し、将来的に革新的な治療戦略を提案する道を開くものです。
脳内で働く神経・免疫細胞間コミュニケーションの新たな様式を解明




















































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