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単一の神経細胞による記憶メカニズムを世界で初めて発見

単一神経細胞の記憶 従来の定説とは異なる、単一の神経細胞で行う記憶メカニズムの存在を実験で確認したと、名古屋大の森郁恵教授らの研究グループが科学誌「Cell Reports」で発表した。脳神経系における記憶メカニズムの完全解明につながる成果としている。

 研究グループはこれまで、線虫の「温度走性行動」について研究してきた。温度走性行動とは、一定温度で餌の存在下で飼育された線虫が、餌のない温度勾配上に置くと過去に体験した飼育温度へ移動する行動のことで、「AFDニューロン」と呼ばれる神経細胞が関与することがわかっている。

 15度で飼育した線虫のAFDニューロンは、15度の環境に線虫がいると応答する一方、25度で飼育した線虫の場合は25度で応答する。そのため、AFDニューロンは温度を感知するだけでなく感知した温度を記憶する「温度記憶細胞」である可能性が示唆されている。

 研究グループは、AFDニューロンの初代培養系を確立し、AFDニューロンをほかの細胞から完全に隔離した条件下で温度記憶が形成されるかを検証した。その結果、細胞内カルシウム濃度で蛍光強度が変化する分子を使った実験で、AFDニューロンの培養温度依存的な温度応答を観察することに成功した。

 次にさまざまな遺伝子の変異体について解析したところ、「cmk-1」遺伝子の変異体で異常が観察された。この遺伝子がコードするタンパク質は、動物の脳でタンパク質リン酸化酵素として機能することが知られている。

 そこで、この酵素の標的分子を網羅的に探索したところ、38種の線虫タンパク質を同定された。また、そのうちの一つ「Rafキナーゼ」の欠損が単一神経細胞の記憶に異常を引き起こすことも突き止めた。

 これまで、記憶はシナプスを介した多細胞間のネットワークによって成り立つとされてきたが、今回の実験結果から単一細胞でも記憶を形成できる能力をもつものが存在することが示されたとしている。

(via 名古屋大学