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体内のエネルギー物質ATPの量を調整してパーキンソン病を治療できる可能性

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生物が活動するためのエネルギーである「ATP」の量を調整して、パーキンソン病の症状を緩和することにマウスの実験で成功したと、京都大の研究グループが発表しました。ほかの神経変性疾患の治療にも活用できる可能性があります。




生物は、さまざまな生理活動を行うためのエネルギーとしてATPと呼ばれる物質を利用しています。とくに脳は大量のエネルギーを必要としており、ATP量の減少は神経細胞死をもたらし、神経変性疾患を引き起こすことが知られています。

パーキンソン病は、神経変性疾患の中でも頻度の高い疾患ですが、原因としてミトコンドリアの機能不全やATPの減少だと考えられています。

そこで研究グループは、パーキンソン病のモデルマウスを使ってATP量を調整して治療が可能かどうかを調べました。

ATP量を調整する薬剤でパーキンソン病マウスを治療

ATPの量を調整する薬剤として、ATPの消費を抑制する薬剤と、ATPの産生を促進する薬剤を使いました。

ATP消費の抑制物質としては、研究グループが以前の研究で開発したKUS剤を使用。この薬剤は、網膜色素変性や緑内障、虚血性網膜疾患で、網膜神経の細胞死を防止できることがマウスの実験で確認されています。

ATP産生の促進物質としては、クマリン由来の天然化合物であるエスクレチンを使用。この物質はミトコンドリアの産生に関わるタンパク質のアゴニストで、細胞内のATP量を上昇させることができます。

研究グループは、これら2種類の薬剤をパーキンソン病マウスに投与したところ、ATP量が上昇し、神経細胞死の保護効果がもたらされることが確認されました。

ATP量の低下とα-シヌクレイン発現の関係

パーキンソン病の患者では、神経細胞内に「レビー小体」と呼ばれる円形状の構造物が生じることが知られています。

このレビー小体は主に「α-シヌクレイン」というタンパク質の凝集体ですが、今回の実験で治療を行ったパーキンソン病マウスではα-シヌクレインの発現量が正常値に戻っていました。

このことから、ATP量の低下とα-シヌクレインの発現に関連があることも示唆されました。

治療戦略

ATP量が減少すると、疾患の初期段階で細胞や器官の機能を低下させます。また、さらにATPの減少が進むと細胞死や臓器不全を引き起こします。

そのため、ATP量を正常値に調整することで疾患の進行を抑えたり、細胞の機能を回復して症状を緩和できる可能性もあります。

出典:京都大学