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「共感」して仲間を助ける行動は、純粋な「思いやり」とは違うのかも知れない

困っている人がいたら助けようと思うのが人情ですが、はたしてこれは、思いやりの気持ちからなのでしょうか。近年は「共感」という言葉をよく耳にしますが、「共感」と「思いやり」は全く違う心理である可能性が、ラットの実験から明らかになっています。




ラットが仲間を助ける理由

ラットは、狭い場所に閉じ込められている仲間を見ると、助け出すための行動にとります。このことは、過去の実験からすでに示されていますが、シカゴ大学の研究グループはある実験を試みます。

研究グループは、「ミダゾラム」という催眠鎮静剤をラットに投与しました。

ミダゾラムは検査や手術、治療などをスムーズにするために使用される薬剤で、「不安感や恐怖」を取り除く作用があります。

実験の結果、ミダゾラムを投与されたラットは、ケージを開けて仲間を助ける行動を取らなくなることがわかりました。

一方、ケージの中にチョコレートなどが入っている場合はケージを開けるため、不安感や恐怖などの「精神的な苦痛を感じなければ仲間を助けようとしない」ことを示しているのは明らかです。

「共感」という心理の正体

この実験結果から、どのようなことが言えるでしょうか。

不安感や恐怖心をやわらげる薬剤を投与すると救出行動を取らなくなったことから、ラットが仲間を助ける行動のもとになっているのは、仲間が閉じ込められているのを見たときに感じる「自らの苦痛」です。

このことを一般的に「共感」と呼んでいます。

相手が「つらい思いをしている」のを見ると、自分自身もつらい感情を抱くのが「共感」です。

困っている人を見ると「共感」して助けようと思うことは、とても人情味のある美しい行動に聞こえます。しかしその裏にある感情は、実は自分自身も感じてしまった「つらい気持ち」から逃れたいと思う心理とも言えます。

今回の実験が示していることは、「共感」によって自分の中に生まれた精神的苦痛を別の方法によってやわらげてしまうと、他者を助けようとは思わなくなる、ということです。

はたして、「共感」とはいったい何なのでしょうか。もしかすると、純粋な「思いやり」とは少し違う心理なのかも知れません。

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