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人類の進化の歴史を塗り替える可能性がある「ホモ・ナレディ」を巡る論争

2013年9月、南アフリカ共和国にある洞窟の奥深くから、およそ1550個という大量の人骨化石が発見されました。その特徴から新種とされ、「ホモ・ナレディ」と名付けられましたが、いろいろと問題があるようです。




ホモ・ナレディ

少なくとも15体はあるとされた人骨は、南アフリカのヨハネスブルクから北西におよそ50キロ離れた「ライジング・スター洞窟」の奥にある地下の空洞で発見されました。

骨は幼児から老人までさまざまな年代のものが入り交じっていましたが、これらから復元モデルを作製して詳しく分析したところ、これまでに発見されたことのない特徴をもっていました。

例えば頭の骨は小さく極めて原始的で、脳の容量はホモ・サピエンスの半分に満たない程度でした。しかし、この小さな脳を支えている体はそれほど小さくはなく、成人男性の身長は約150センチ、体重40キロほどもありました。

また、手の骨を調べると非常に現代的である一方、不思議なことに指だけは樹上で生活する動物であるかのように曲がっていたという。肩の骨についても猿人に近く、より原始的である特徴がありました。

脚の骨については、大腿骨の付け根の部分は猿人であるアウストラロピテクスに近い特徴をもつにも関わらず、下の方に向かうと現代的な形をするようになり、足の形状については現代人とほとんど区別がつかないのだという。

まとめると、おおむね「腰より上は原始的、下は現代的」な形態をもつハイブリッドな人類であったと考えられるそうです。

これらの特徴から、ホモ・ナレディはアウストラロピテクス属からヒト属に進化する過程に位置しており、ホモ・エレクトスよりもさらに現代人に近いことがわかりました。

実は年代がよくわかっていない

このように、原始的な特徴と現代的な特徴が入り交じっているホモ・ナレディは、およそ200万~300万年前に存在したと研究者らは考えているようです。

しかしながら、これはあくまで化石の特徴から推測した結果にしか過ぎず、本当の年代については科学的に証明する必要があります。

猿人「アウストラロピテクス」などの化石人骨は東アフリカで発見され、およそ320万年前のものだと特定されています。東アフリカで発掘された化石の年代については、堆積している火山灰層から具体的に年代を推定することが可能です。

一方、南アフリカで発掘された化石についてはどのように年代を調べるのか。こちらは東アフリカのように堆積物から推定することができないため、もっぱら同じ場所で発見される絶滅動物の化石の種類から推定することになります。

しかし、今回ホモ・ナレディが見つかった洞窟からはフクロウの骨が1つ、げっ歯類の歯の化石が数個しか見つかっていません。そのため、具体的に年代を推定することが困難なのだという。

そのため、ホモ・ナレディが実際にどの年代に生きていた種なのかについては、まだ科学的には証明することができていません。

正確に年代を推定するためには、化石人骨そのものを使って放射性炭素法などで測定する必要がありますが、それでは化石を損傷するおそれがある。化石についてより詳細な分析を終わらせてから、年代を測定する作業に取りかかることになるかも知れません。

なぜ大量の骨が密集して発見されたのか

15体もの大量の骨が発見されたのは、洞窟の奥深くにある地下空洞でした。なぜこのように密集した状態で見つかったのでしょうか。

研究者らは、仲間の亡骸を洞窟の奥まで運び、1カ所に集めて埋葬したと考えているようです。しかしまだ原始的な脳しか持たなかったとしたら、そのような儀式的な行動をとることができたかどうかは疑問が残ります。

ホモ・ナレディは人類の進化でどのような位置を占めるのか、実際のどの年代に生きていたのか、なぜ原始的な体の特徴と近代的な特徴を併せ持つのか、そしてどの程度の知能をもっていなのか、まだ謎は多く残されています。

参考:NATIONAL GEOGRAPHIC