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宇宙飛行士の脳に構造の変化、長期にわたる無重力状態が影響か

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宇宙飛行士の脳構造に、わずかながらも変形するなどの異常がみられることが発表されています。健康などへの悪影響についてはまだ不明ですが、今後の宇宙開発事業に何らかの影響が出てくる可能性があります。




国際宇宙ステーション(ISS)は米国、ロシア、日本、カナダ、そして欧州宇宙機関が共同運用している巨大な有人施設で、地上約400キロを時速約28000キロで地球の周りを飛行しています。数字からはその速さがあまり実感できませんが、おおむね地球の周りを90分で1周するスピードです。

地球や宇宙空間を観測したり、あるいは宇宙での環境を利用したさまざまな研究がされています。

当然ながら滞在している宇宙飛行士の健康を守るため、さまざまな環境制御、生命維持システムが常に稼働している状態にあります。しかし、地上とは異なる環境下で長期間にわたって滞在するために、人体に対して予期せぬ影響があることは容易に想像がつくことです。

米医学誌に発表された研究結果によると、ISSに滞在した宇宙飛行士の脳の構造に、打ち上げ前と比べて変化が生じていることがわかりました。

研究では、宇宙空間に半年間という長期滞在した18人と2週間程度の短期滞在をした16人の脳について、MRIを使って打ち上げ前と帰還後の脳画像を比較しました。

その結果、長期滞在した17人(94%)と短期滞在した3人(19%)において、「中心溝」と呼ばれる溝が狭くなったことが確認されました。

中心溝とは、頭頂部付近にある脳の溝で、頭頂葉と前頭葉の境界にあたります。中心溝は、体の各部位の筋肉を動かす信号を出す領域と、体の各部位から感覚の情報を受け取る領域に接しています。

さらに、長期滞在した12人(67%)と短期滞在した6人(34%)では、脳の位置が頭頂部側に、わずかではあるものの「ずれ」ていることも明らかになりました。

このように脳の構造に変化が生じた原因としては、無重力の影響によって脳脊髄液が頭部に集まり、脳内の圧力が地上にいたときと比べて高くなったことが考えられるとしています。

これは、宇宙空間では顔がふくれたり、逆に足が細くなったり、あるいは打ち上げ後に「宇宙酔い」と呼ばれる気分が悪くなる現象とも、関係があるようです。

また、長期間の宇宙滞在を経験した宇宙飛行士の多くが「視覚障害」を抱えることとも関係します。打ち上げ前と比べて視力が極端に低下したり、眼球の後方の部分の形状が変化したり、あるいは視神経に炎症を起こした事例が確認されています。これらは「視覚障害脳圧症候群」と呼ばれています。

米国には将来、有人の火星探査機を打ち上げる目標があるとされていますが、地球と火星の距離を考えると往復で3年も宇宙空間で過ごすことになります。

このような、長期間にわたる滞在が体に与える影響を考慮すると、技術的な面よりも健康の問題から計画が頓挫する可能性があります。