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バーチャルリアリティーで「腕が伸びる感覚」を体験できるシステムを構築

バーチャルリアルティーシステムで「腕が伸びる感覚」を体験できる技術を名古屋市立大学の研究グループが開発しました。ゲームなどエンターテイメント分野のほか、リハビリやイメージングトレーニングなどの分野での応用も期待されています。




腕が伸びるイメージを生み出すVRシステム

近年、ヘッド・マウント・ディスプレイ(HMD)を使ったバーチャルリアリティー(VR)を体験するためのシステムの開発が進められています。

HMDを使ったVRシステムでは、体験者の視野から現実の世界を完全に遮断することで、現実世界とは異なる「仮想世界」を見せて、その世界に没入させます。

バーチャルリアリティー体験の中でも、HMDで「特定の身体のイメージ」を示しながら、実際にその対応する身体部位にも接触して感覚を刺激する「Full Body Illusion」という手法があります。

名古屋市立大学大学院芸術工学研究科の小鷹研理准教授らの研究グループは、「腕の長さが伸びたり縮んだりする変形感覚」をもたらすシステムを設計しました。

腕が変形する感覚を生み出すために、実際に腕が引っ張られる刺激を与えるとともに、HMD内の映像の世界でも腕の長さを変形します。

このときに、腕が引っ張られる強さに応じてイメージの世界の腕の長さをなめらかに変えることが重要になってきます。

引っ張りの強度を計測する際、筋肉にかかる負荷を直接に計測しようとすると、体験者の身体を計測器で拘束する必要があります。

そこで研究グループは、体験者と対面している別の人と「ポールを引っ張り合う」ときに腕にかかる力を計測する方法を使ってシステムを構築しました。

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HMD装着者が見ている映像(名古屋市立大学大学)

ポールを引っ張り合うとき、体験者の腕が強く引っ張られるほど、体験者の自重が大きくなります。つまり、体験者の重量を体重計で計測してその自重変化から引っ張り力を推定します。

この方法では、体験者は直接的に計測器を装着する必要がないため、ストレスフリーな状態で腕にかかる負荷の情報が得られ、それに応じてHMD内で示されるイメージを作り出すことができます。

ゲームやリハビリ、イメージトレーニングで応用

今回の手法を使えば、HMDを使って腕が自由に伸び縮みする感覚を得ることができます。

これによって、例えばゲームなどエンターテイメントでは新たな身体表現を作り出すことができたり、さらには人間の「生物としての空間認識の作法」で質的な変化をもたらす可能性があります。

現実の空間では、手が物理的に届くことができる範囲を「操作可能な空間」として脳内で処理されます。

そのため、逆に言えば仮想空間で実際より自分の腕が伸びたと感じることで、体験者は操作可能な空間が広がり、より幅広い空間に対して身体的な注意を迅速に働かせることが可能になることを示すという。

このように仮想空間で身体イメージが変化することから、エンターテイメント分野のほか、リハビリやイメージトレーニングなどでも新しい応用の可能性が広がることが期待されています。