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「マインドフルネス訓練法」でゾーンを体験、ハイパフォーマンスを獲得する

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近年、ストレスを軽減したり集中力を高めるなどの効果があるとして、「マインドフルネス」と呼ばれる状態あるいは方法がビジネスや医療、教育現場などで注目されています。瞑想から生まれたとも言われるものですが、いったいどのようなもので、どのような効果があるのでしょうか。




マインドフルネスとは何か

マインドフルネスとは、端的に言うと、「今、この瞬間に自分が体験していることに意識を向けている」心理的な状態と表現することができます。

たとえば、昼食の時間に会社の食堂でランチを食べているとします。そのメニューはこれまでにも何度か食べたことのある定食です。このとき、頭のなかでは何を考えているでしょうか。

はじめて食べるメニューであれば、「これはどんな味だろうか」など興味を持って食べるかも知れません。しかし、すでに食べた経験のあるメニューであれば、わりと自動操縦のように箸と口を動かしながら、頭の中ではまったく食事とは無関係のことを考えているものではないでしょうか。

マインドフルネスの状態とは、まさにこの瞬間、ランチの味をしっかりと舌や鼻で感じ取り、そして箸を動かす動作そのものに意識を集中して「食べる」という行為に没頭している状態であり、そしてその状態を意識的に実践することを言います。

「今この瞬間の自分の体験」に注意を向けて、その感覚を自然に受け入れている状態こそが、マインドフルネスというわけです。

マインドフルネスと「ゾーン」との関係

身近なものとしてランチの例を挙げましたが、仕事や勉強、人との会話の最中でさえ、実はそれほど頭の中は集中してはいないものです。これは、スポーツ選手が競技に取り組んでいる場合であっても、同様のことが言えます。

スポーツの世界では、プロやアマを問わず一流の選手であれば、いわゆる「ゾーン」と呼ばれる感覚を経験することがあります。

これは極度の集中状態にあって、競技に没頭している状態で体験する特殊な感覚であり、ただ単に調子がよかったり、よく集中できているというだけでなく、「心と体が完全に調和した境地」というような、特別な感覚です。

「ゾーン」とは反対に、これまで自然にできていたパフォーマンスがまったくできなくなってしまう「スランプ状態」に陥ることがあります。スランプ状態になると、選手はどこがどう悪いのか、以前の感覚はどいだったかを考え始めます。

すると、競技に集中するどころか心と体がバラバラになり、競技に取り組みながらも頭の中ではまったく違ったことを考え始めます。このような状態に一度入ってしまうと、なかなか元のパフォーマンスを取り戻すのは困難になってしまいます。

このように考えてみると、スポーツ選手たちが体験する「ゾーン」とは、すなわち「マインドフルネス」の状態と同類のものと考えてもよいのではないでしょうか。

しかし、一流のスポーツ選手であっても「ゾーン」体験は意図的に起こすことができるものではありません。

ただし、100%の確率でゾーン状態に入るということはできないとしても、その確率を高めることは可能だといいます。その秘訣は、「考えないこと」です。

マインドフルネスによって得られるもの

スポーツ競技におけるパフォーマンスの向上は、マインドフルネスによって得られるメリットの最もわかりやすい例だといえます。しかし、マインドフルネス状態の有用性は何もスポーツに限ったことではありません。

目や耳などから入ってくる外界からの情報を完全に把握し、今この瞬間にすべきことに集中できる能力は、すべてのビジネスシーンにおいても有用です。

そして、実はマインドフルネスは、心をリラックスさせてストレスを軽減することにも活用することができます。

「作業に集中する」というと心身を消耗させるイメージがありますが、逆に「リラックス」するとはいったいどういうことなのでしょうか。

スポーツ選手がスランプに陥ったとき、過去の体験を必死になって思い起こそうとしたり、現状から考えてひどいプレイを予測する、あるいはスランプ状態から抜け出せない未来を悲観したりします。「過去」や「未来」のことを無限ループのようにあれこれと考えを巡らせることは、脳に非常に大きな負担がかかります。

仕事やプライベートで悩みを抱えていると、何かをしているときも常に心配事のことが頭を巡ります。通勤などで電車に乗っているときや歩いている最中、食事中ですら、何も考えていないようでいて、頭の中はさまざまな悪い考えが勝手に回りはじめます。

このような状態に陥ると、脳は常にフル回転をしているようなもので、ストレスが蓄積していきます。常に脳が興奮状態になるため、睡眠の質にも影響を与えます。

マインドフルネスが脳をリラックスさせてストレスを軽減するとは、今この瞬間に外界で起こっていること、現実にすべきことに意識を集中することで、脳が余計な考えを巡らす過程に入ることを抑制する効果のことです。

つまり、マインドフルネスはさまざまな分野で集中力を高めてパフォーマンスを向上させてくれると同時に、思考のループによる脳の過剰な活動を防いで疲労を抑制するという効果が得られるわけです。

マインドフルネス訓練法

マインドフルネスとは、今この瞬間に集中している状態です。逆に言えば、余計なことは考えない状態でもあります。

しかし、実際に「集中する」や「考えない」を実践しようとしても、なかなかできることではありません。そこで、マインドフルネス状態に入りやすくするための訓練法が書籍などで紹介されています。

さまざまな種類の訓練法が提案されていますが、共通することはリラックスした状態で外界の音や体のさまざまな部位に意識を向けて感じ、そして「呼吸」に集中する訓練です。

人間の脳の構造の特徴から、「何も考えない状態」をつくるのは非常に難しいことです。しかし、何かに集中することで余計な思考を頭から追い出すことは比較的簡単なことです。

そこで、多くのマインドフルネス訓練法では、自分の「呼吸」に集中する訓練が提案されています。

細かい部分に違いがあっても大まかな流れは同じで、座禅や瞑想の方法とも一致しています。これはマインドフルネスの目的が、座禅や瞑想と根底の部分で共通しているからです。

マインドフルネス訓練法の例

  1. 目を閉じてリラックスした状態で椅子に座る。手のひらを上に向けて腿の上に乗せる。(床に座ってあぐらでもよい)
  2. 手、腕、肩、そして、頭、胴から下半身へと順番に体の部位に意識を向けていく。
  3. お腹をへこませながら口から息を吐き切る。
  4. お腹を膨らまながら5秒間で鼻から息を吸う。
  5. お腹をへこませながら5秒間で口から息を吐く。
  6. 呼吸を続ける。

呼吸は正確に5秒間にこだわる必要はなく、自分が呼吸しやすい時間でかまいません。途中で頭にさまざまな思考が浮かんできても、無理に消そうするのではなく、そのままにしておきます。そして、また呼吸に注意を向けてください。

1日1回、10分間だけ訓練を続けてみましょう。毎日続けていくうちに、ストレスが軽減され、「今この瞬間に集中する状態」を感じることができるようになっていきます。

マインドフルネスとは、何も特別なことではありません。目の前のことにただ自然に取り組むことです。

しかし、さまざまな思考を常に頭の中に巡らすことに慣れてしまい、今この瞬間、目の前にあることに集中する感覚を忘れてしまっているため、必要以上に脳を疲れさせてしまい、そして全力で取り組むことが困難になっているわけです。