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鳥が歌を子孫に伝承する脳の仕組みが解明される

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小鳥がさえずる「歌」を子孫に伝える脳の仕組みが解明されています。いったいどのようにして、外界の関係ない音と区別して親が歌う歌だけを模倣しているのでしょうか。




人間にはほかの人が行う行為を模倣する能力をもっており、それによって次の世代へと言語や文化を伝えることができます。

このような優れた能力は動物界においてはとても珍しいものですが、キンカチョウなど歌をさえずる鳥では「模倣」を通して歌を学習して次世代へと伝承することが可能です。

キンカチョウは、オーストラリア周辺を原産とする鳥で、神経科学の研究ではよく用いられています。

キンカチョウは、親がさえずる歌を正確に模倣して子孫へと伝えますが、外界の音をすべて模倣していては、安定的に歌の伝承を行うことはできません。

では、いったいどのようにして、親鳥の歌のみを正しく模倣することができるのでしょうか。

ドーパミンによって模倣を行う

東北大学などの研究チームは、キンカチョウの脳の働きを解析することで、歌を模倣するために必要な神経回路と特定しました。

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適切な模倣対象である「オスの成鳥」から直接歌いかけられたとき、幼いキンカチョウの脳内では、聴覚野と水道周囲灰白質(PAG)と呼ばれる領域において活動が生じます。

PAGは脳の深部にある中脳と呼ばれる領域に存在します。痛みや情動反応などさまざまな神経細胞が混在しており、最近ではドーパミンを放出する細胞が快楽や覚醒といった機能をもつことが明らかになっています。

ドーパミンとは快楽や運動などの脳機能に関わることが知られている神経伝達物質ですが、まさにこの物質が歌の伝承に関わることがわかりました。

幼いキンカチョウは、成鳥に歌いかけられたときだけ、PAGが活動してドーパミンを放出。これが歌の行動を司る感覚運動野へと働きかけます。

実験では、ドーパミンの信号伝達を遮断してしまうと歌の模倣が行われなくなること、逆にドーパミンを放出させるとスピーカーから流れた歌であっても模倣してしまうことも明らかになりました。

感覚運動野の活動を記録してみると、ドーパミンが放出しているときに流れた歌に反応することが確認され、ドーパミンがこの脳の部位に歌の記憶を形成することで模倣行動を発動するものと考えられます。

このような神経回路の発見は、技術や文化の伝承、あるいは言語などコミュニケーションにも重要な役割を果たす「模倣行動」の起源を解明する重要な研究結果といえます。