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寄生虫によって本当にダイエット効果があるのか、実験で証明される

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近年は世界中で肥満が増加していますが、高血圧や高血糖、動脈硬化などの危険性が高まり、さまざまな病気の原因となるため社会問題となっています。世の中にはさまざまなダイエット方法が知られていますが、「寄生虫によって痩せる」といった方法が昔から知られています。

かつて、世界的に有名な歌手がサナダムシを腸内に飼うことでダイエットに成功したなどという、真偽があやしい話がありました。はたして、このようなことは実際に可能なのでしょうか。

そもそも、腸内に生息する微生物が人体にさまざまな影響を及ぼすことは、近年よく知られるようになってきました。腸内に寄生する寄生虫についても、たとえば免疫系に作用して、自己免疫疾患やアレルギーを抑制する能力があることもまた報告されています。

腸内の寄生虫がなんらかの影響を人体に与え、その結果として体重増加を抑える効果が生まれるといった現象もまた、あっても不思議ではない話です。

では、実際にそのような効果があるのでしょうか。これについては、群馬大学の研究グループがマウスを使った実験で証明しています。

寄生虫が体重増加を抑制する

研究グループは、高脂肪食を与えてあらかじめ太らせたマウスに寄生虫を感染させました。

そして、これらのマウスに寄生虫を感染させたところ、体重の増加が抑えられ、そして脂肪量も低下して血中の中性脂肪や遊離脂肪酸が優位に低下することが確認されました。

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寄生虫感染による体重増加の抑制(群馬大学)

体重増加が抑えられるメカニズムとしては、2つのことが考えられます。ひとつは、カロリーの摂取量が減ることです。そしてもうひとつは、エネルギー代謝が上がることです。

研究グループによると、寄生虫が感染したマウスは、感染していない通常のマウスと比べても特に食べるエサの量に差は認められなかったとしています。つまり、体重増加の抑制効果は、カロリー摂取量が減ったためではなかったようです。

それでは、エネルギー代謝量についてはどうでしょうか。寄生虫に感染したマウスについて調べてみると、実はエネルギー代謝に関係する「UCP1」と呼ばれる遺伝子の発現量が通常のマウスと比べて優位に増加していることが明らかになりました。

このように、寄生虫感染による体重増加抑制効果は、どうやらエネルギー代謝量が増加することで得られたものであるようです。

UCP1が活性化すると脂肪を燃焼させる効果があります。UCP1の発現上昇についてはさまざまなメカニズムが報告されていますが、最終的には交感神経系の活性化が重要であることが知られています。

寄生虫感染マウスを調べてみると、交感神経の興奮を伝える神経伝達物質である「ノルエピネフリン」の量が増加していることがわかりました。どうやらこの物質が鍵となっているようです。

つまり、寄生虫が感染したマウスではノルエピネフリンが増えることで交感神経が活性化し、その結果として脂肪が燃焼方向へと働いたことで体重増加が抑えられたようです。

では、寄生虫が感染するとどうして交感神経の神経伝達物質であるノルエピネフリンの量が増加するのでしょうか。

ここにも腸内の微生物が関係しているようです。

今回使った寄生虫は、マウスの小腸に寄生します。腸内にはおよそ100兆個もの細菌が生息しているといわれていますが、これらの微生物は生体にさまざまな影響を及ぼしています。

研究グループは、寄生虫を感染させたマウスと感染させていないマウスについて、腸内細菌の集団を詳しく分析しました。

その結果、寄生虫感染マウスではバシラス属やエシェリキア属など、ノルエピネフリンを分泌させるような腸内細菌が優位に増加していることが判明しました。

つまり、マウスの腸内に寄生した寄生虫が、マウスの腸内細菌の集団に変化を及ぼし、交感神経を活性化する物質を分泌するような特殊な細菌を増加させていたわけです。

その結果、脂肪を燃焼させる遺伝子の発現が上昇して体重増加を抑える結果が得られていたというメカニズムが明らかになりました。

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寄生虫感染による体重増加抑制のメカニズム(群馬大学)

今回の研究の結果から、寄生虫の感染によって実際に体重増加が抑制される効果が得られること、そしてそのメカニズムについても詳しく明らかになりました。

とはいえ、ダイエットのために寄生虫を積極的に腸内に飼うのはどうも心理的にはかなり抵抗を感じてしまうわけですが。