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AIが「かゆみ」の謎を解き明かす

東京大学の研究チームが、マウスの「ひっかき行動」を24時間自動で解析するAI技術を開発しました。この新技術によって、これまで解明が難しかった「かゆみ」の実態が明らかになり、かゆみ治療薬の開発に役立つと期待されています。




アトピー性皮膚炎などで引き起こされる「かゆみ」は、睡眠を妨げて集中力を低下させるだけでなく、慢性的な疲労やうつ病の原因にもなり、生活の質を大きく損ないます。かゆみによって皮膚をかきむしると、皮膚のバリア機能が壊れて症状が悪化することもあります。

かゆみの治療薬は動物実験で開発されてきましたが、これまでの評価方法は、研究者が短時間の動画を目で見てかきむしる回数を数えるという古典的なものでした。この方法では、かゆみの細かな変化や、夜間などの長時間にわたる解析は不可能でした。

そこで研究グループは、AIの一種であるニューラルネットワークを活用した新しい解析技術を開発しました。マウスの飼育ケージを24時間撮影し、その映像をAIで解析することで、人間の観察能力を超える精度でひっかき行動を自動検出することに成功しました。

この技術を用いてマウスのひっかき行動を24時間解析したところ、従来の短時間観察では見えなかったかゆみの新たな側面が明らかになりました。

「かゆみがなかなか消えない時間帯」の発見:健康なマウスでも、昼間(マウスが休息する時間帯)のほうが、一度かき始めるとその行動が長く続き、なかなか消えないことが判明しました。これは、人間が「夜になるとかゆくて眠れない」と訴える現象とよく似ています。

「生活リズムを乱す持続的なかゆみ」の可視化:アトピー性皮膚炎のマウスでは、かゆみが数日間にわたって続き、眠っているはずの時間でもひっかき行動を繰り返していることがわかりました。これは、一時的なかゆみではなく、生活のリズムそのものを乱す「持続的なかゆみ」が起きていることを示しています。

これらの成果は、これまでの研究では捉えられなかったかゆみの持続性や日内変動を世界で初めて捉えたものです。

このAI技術は、少ない動物実験から最大限の情報を得ることを可能にし、実験の効率化と倫理性の向上に貢献します。また、人間の主観に左右されない客観的なデータを生み出すことで、かゆみ研究の新しい基準を確立することができます。

本研究によって、これまで解明が難しかった「夜間のかゆみ」のような問題に正面から取り組む道が開かれました。今後は、この技術を活用して、患者さんの生活の質を根本から改善する新しいかゆみ治療法の開発につながることが期待されます。

マウスの「かゆみ」をAIで“見える化”――かゆみの質と量を定量できる新技術を開発――