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がん細胞の移動運動「遊走」を阻止する分子を開発、細胞をピン留め状態に

がん細胞が体内を自由に移動する「遊走」を阻止する新しい技術を開発したと、沖縄科学技術大学院大学の研究グループが科学誌「Chem」で発表しました。さまざまなタイプのがん細胞を標的とする新たな治療法につながる可能性があります。




がん細胞が浸潤し、運動しながら体内を移動するのを阻止するのは、がん治療において重要です。研究グループは、細胞膜内を自由に動いている「脂質ラフト」に着目し、がん細胞の運動を阻止する方法を開発しました。

脂質ラフトは、細胞内部でネットワーク状の構造を形成する細胞骨格と結合しています。細胞骨格は細胞の運動にとって必要であることから、脂質ラフトを標的とすることで、がん細胞の運動を阻害することにつながります。

研究グループが開発した「がん破壊分子」は、ルテニウム金属錯体の周囲に3個のペプチドが結合しています。

この分子は、脂質ラフト上にある子宮頸がんマーカーである「グリコシルフォスファチジルイノシトールアンカー胎盤アルカリフォスファターゼ」と結合すると、集合してナノ繊維を作ります。

その結果、脂質ラフト同士が結合してクラスターを作るために、脂質ラフトとつながっている細胞骨格が引っ張られ、細胞がピンで留めたように固定されます。

がん細胞はこの状態から逃れようとして「糸状仮足」という突起物を伸ばしますが、この突起物の先端にある脂質ラフトもまた同様にクラスターを作り出し、さらにピン留めされた状態になります。

がん細胞が逃れようと反応するにしたがって、細胞が薄く広げられ、最後には細胞が破裂して細胞死が起きます。

がん細胞はそれぞれのタイプに応じてマーカーとなる分子があるため、ルテニウムの分子構造を変えることで多様ながん細胞にも応用できる可能性があるとしています。