人間はさまざまな音を耳で捉えて判断しているが、「音の間隔」の認識もそのひとつ。1秒未満の比較的短い時間の知覚や判断は、音声による言語の理解や調和のとれた身体運動、あるいは音楽におけるパターンの認識には重要である。
しかし、実際に発生している音の時間と、知覚されている時間とでは隔たりが生じる「錯覚」が起こる。これまで、音の時間間隔に関する脳内のメカニズムについては解明されていない部分が多く残されていた。
九州大学などの研究グループは、「時間縮小錯覚」と呼ぶ心理現象を用いて脳磁図を計測することで、脳が知覚・判断する時間に対応した脳の働きを捉えることに成功した。
時間縮小錯覚
たとえばアラーム音などの単純な音のまとまりを聞いたとき、その音と音との間の間隔についてどのくらいの長さに感じられたかを調べるとする。
2つの音(♪ ♪)を聴いたときと、3つの音(♪♪ ♪)を聴いたときについて、2番目と3番目の音の間隔がどれくらいであったかを比べてみる。
すると、実際にはまったく同じ時間間隔であったとしても、2音より3音を聴いたときの方が、感覚としては短く感じられるという。
これを「時間縮小錯覚」と呼んでいる。
今回、研究グループはこの時間縮小錯覚を用いて脳の働きを脳磁図計測することで、時間を知覚・判断する際に活動する脳領域を特定した。
時間知覚判断ネットワーク(出典:九州大学)
その結果、時間間隔に注意を向けてそれを符号化する働きは右半球側頭頭頂接合部(TPJ)で行われており、そして時間を判断するのは右半球下前頭皮質(IFG)であることがわかった。
音を聞きおわった直後におけるIFGの神経活動の高まりは、時間縮小錯覚を提唱した中島祥好教授の仮説と合致するものだったという。
時間の知覚や判断における脳内のネットワークをさらに詳しく理解することは、新たなリアルタイム処理技術を生み出す可能性がある。
たとえば、3つの音にはさまれた2種類の時間間隔の違いを判断する課題では、作業記憶などさまざまな機能が必要である。そのため、これを利用して脳機能の診断検査に応用し、発達障害や認知症の診断マーカーなどの開発につながることが期待できる。