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サルは温泉入浴で冬のストレスを軽減していることが判明する

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温泉につかるニホンザルの姿は日本では有名ですが、どうやら温泉に入ることで実際にストレスを緩和していることが明らかになりました。ストレスホルモンの濃度を下げる効果があるようです。




温泉に入るニホンザルは海外でも「スノーモンキー」と呼ばれているようです。長野県の地獄谷野猿公苑に住んでいるニホンザルが有名ですが、京都大の霊長類研究所の研究グループがはじめて温泉入浴の効果を科学的に検証しました。

ニホンザルの温泉入浴

ニホンザルは長くて高密度な冬毛をもっており、とても寒い日本の冬でも体温を維持することができます。

ニホンザルの温泉入浴については、今から50年以上も前の1963年にはじめて観察されました。餌付けをしていた旅館「後楽園」の露天風呂でメスの子ザルが温泉につかっている姿が目撃されたようです。

この行動はほかのサルにも広がっていき、群れのメスザルの3頭に1頭は定期的に温泉を楽しむまで流行しているとのこと。ただし、大人のオスはあまり温泉に入らないようです。

このようなニホンザルの温泉入浴については、からだを温めることが目的と推測されていますが、裏付けとなる科学的な、生理学的なデータはこれまで得られていませんでした。

ストレスホルモンの減少

ニホンザルの温泉入浴の効果について詳細に調べるため、研究グループは12頭の大人のメスザルを対象に調査しました。4月から6月にかけての出産シーズン、10月から12月の交尾シーズンについて、温泉につかる時間を調べました。

その結果、春よりも冬、とくに寒さの厳しいシーズンに頻繁に温泉に入ることがわかりました。

次に入浴とストレスホルモンの関係について調べました。冬の寒いシーズンに糞を採取して、ストレスホルモンの代謝産物である「グルココルチコイド」の濃度を調べました。

その結果、入浴がしていない週と比べてグルココルチコイドの濃度が低いこと、さらにこの濃度の違いは冬期にのみ有意な差がみられました。つまり、春のシーズンでは入浴の有無でグルココルチコイド濃度の差は出てこないということです。

このことから、ニホンザルは温泉入浴によって冬の寒さによるストレスを緩和していることが明らかになりました。

ちなみにニホンザル社会で高順位にあるメスほど長い時間にわたって温泉に入ることができるようです。

そのため、高順位のメスほどストレスホルモンの濃度を下げることができる優位なポジションに君臨することができますが、一方では高順位のメスほど頻繁に攻撃的な争いに関わることが多いため、ストレスホルモンのレベルは高くなる傾向があるようです。なかなかうまくはいかないようです。

また、地獄谷には毎日、平均で500人ほども観光客が訪れてサルの姿を観察しています。これらの観光客はサルたちにストレスを与えているかどうかが心配になります。

ところが、観光客が原因となるストレスについて調べてみたところ、ストレスホルモンの上昇は見られなかったようです。観光客に見られることについては、サルたちはとくに気にしていないようです。