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サリドマイドによる催奇形性はなぜ左手型なのか、分子レベルで解明される

サリドマイドで「左手型」のみの分子が催奇形性を誘発する原因について、奈良先端科学技術大学院大学の研究グループが分子レベルで解明しました。




サリドマイドは1950年代に催眠沈静薬として販売されましたが、胎児に奇形が起こる「催奇形性」の副作用があるとして使用が中止されました。

サリドマイド分子には、立体的な構造が異なり右手と左手のような鏡写しの関係にある「鏡像異性体」があります。

右手型のサリドマイドと左手型のサリドマイドがあるなか、催奇形性があるのは左手型のみとされていますが、その催奇形性のメカニズムは謎とされてきました。

2010年に、サリドマイドがプロテアーゼの一種のユビキチンリガーゼを構成する「セレブロン」と呼ばれるタンパク質と結合し、その機能を阻害することが発見されました。そして手足の成長を促進するFGF8タンパク質が阻害されることで奇形が誘発されるとされています。

そこで、奈良先端科学技術大学院大学の箱嶋敏雄教授らの研究グループは、右手型と左手型のサリドマイドをそれぞれセレブロンと結合させた複合体の立体構造をX線結晶構造解析法で解明しました。

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複合体構造(奈良先端科学技術大学院大学)

その結果、左手型のサリドマイドの方が右手型よりも安定な複合体を形成することが原子レベルで解明されました。

また、定量的な結合解析を行ったところ、左手型の方が右手型よりもおよそ10倍もセレブロンへの結合力が強いことがわかりました。

さらに、左手型のサリドマイドが結合することで、それにつづく「自己ユビキチン化」が強く阻害されることも実験で確認されています。

このように、40年間謎に包まれていたサリドマイドによる催奇形性のメカニズムが分子レベルで明らかになってきています。今後は安全なサリドマイド型治療薬の開発などにつながると期待されています。

参考:サリドマイドの左手型催奇形説を分子レベルで解明、40年間の謎に終止符