骨伝導イヤホンまたは骨伝導ヘッドホンと呼ばれているものは、鼓膜を通さずに音を感じることができる新しいタイプのヘッドホンです。アマゾンなどでも普通に購入できるようになりましたが、どのようなものなのか意外と知られていません。そこでここでは、そのメカニズムや種類などについてまとめていきます。
最近はスマートフォンの広がりとともに無線イヤホンを利用するひとも増えています。しかし環境音を閉ざしてしまう弊害や聴覚への影響など、さまざまな問題も取り沙汰されてきました。
しかし骨伝導タイプのイヤホンは耳をふさがずに音を感じることができるため、これらの問題はクリアできる優れた性質をもっています。
まずは骨伝導とはどのようなものかについて解説していきます。
骨伝導とは
イヤホンで音を聞くとき、イヤホンから流れてきた音が鼓膜を振動させ、その振動が聴覚神経に伝わります。
しかし骨伝導の場合は、鼓膜を通さずに直接耳の周辺の骨を振動させ、その振動が聴覚神経に伝わります。
骨伝導ヘッドホン(パナソニック)
はじめて骨伝導イヤホンを装着して音を聞いてみると、とても不思議な気持ちになるのですが、実は骨伝導による音はふだんから聞いています。
自分の声を聞くとき、口から出た音を耳そして鼓膜を通して聞くと同時に、骨伝導による音としても聞いています。耳をふさいだ状態で声を聞くとちょっとくぐもった声が聞こえますが、あれが骨伝導による自分の声です。
18世紀の作曲家ベートーヴェンは若い頃に難聴になってしまいましたが、彼は指揮棒を歯で噛んでピアノに押し当てて、骨伝導で音を聞き取っていたといわれています。
このように、骨伝導による音の聴き方は別に特別なものではありません。骨伝導は騒音の大きな環境下でもよく聞こえるため、工場内などの現場でも通話ができるヘッドセットとして利用されています。
骨伝導ヘッドセット(パナソニック)
また、耳をふさがずに音を聞き取ることができるため、耳を解放しておかなければならない状況で働く消防士や兵士などの通信機器にも利用されているようです。
健康への影響
耳を使わずに骨を伝って音を聞くというまったく新しいタイプのヘッドホンですので、健康に対する影響が気になるところです。しかし先にも書きました通り、骨伝導そのものはそれほど特別な現象ではありません。
骨伝導タイプのヘッドホンが世の中に出回ってからすでに時間が経っていますが、今のところ骨伝導ヘッドホンによって難聴になりやすいという問題も挙がってきていません。
イヤホンで大音量の音を聞き続けると難聴になりやすいと言われていますが、骨伝導タイプはイヤホンよりも音を聴きやすいため、むしろ難聴になりにくいとも言われているようです。ただし、一般的なイヤホンと同様に大音量で長時間にわたって聴き続けることは注意が必要でしょう。
自転車での利用は違法になるのか
数年前に改正道路交通法が施行され、自転車の運転ルールの取締りが強化されました。イヤホンをしながら自転車に乗ると注意をされるとして、話題になりました。
そこで疑問が生じるのは、「骨伝導ヘッドホンは道交法違反なのか」ということ。なぜなら、骨伝導ヘッドホンは耳をふさいでいないからです。
この問題は、そもそもイヤホン使用が違法かどうかについてから説明する必要があります。
危険な自転車運転を取り締まるために道交法が改正されましたが、そこでは「14種類の危険行為」が定められました。
しかし、結論から言うと、実はイヤホンの使用がそもそも明確に禁止されているわけではないのです。つまり、イヤホンの使用自体は法律違反とはなりません。ただし、イヤホンで大音量の音楽を聴いていたことが原因で事故が起きた場合、14番目の「安全運転義務違反」とみなされるおそれがあります。
つまり、重要なことは、「安全な運転に必要な音声が聞こえるか」ということです。
埼玉県の「道路交通法施行細則について」によると、
- 単純に「解放型だから大丈夫」ということにはなりません
- 単純に「片耳だから大丈夫」ということにはなりません
とあります。結局のところ、イヤホンで耳をふさいだからダメというわけでもありませんが、耳をふさいでいないからオーケーというわけでもありません。骨伝導タイプのヘッドホンであっても、あまりにも大音量で聴いていて周囲の音に気付かないようであれば安全な運転に支障をきたすからです。
そのあたりの判断については現場の警察官にまかせられているようですが、実際の取り締まりでも「呼び止めたときに気付かなかった」という場合に「外の音声が聞こえていない」と判断されることがあるとのことです。
もし自転車走行中に警察官に呼び止められたのなら不必要に反発することなく、耳をふさいでいないこと、音量も小さめにしていることを説明しつつ、安全な運転が維持できるように音量には気を付けて運転する旨を伝えておくことがよいでしょう。
いずれにしろ、違反になるかどうかというよりも、運転中の安全が確保できるかどうかを優先することが大事と言えそうです。
骨伝導ヘッドホンは音漏れするのか
音は空気が振動することで発生します。骨伝導タイプのヘッドホンはふつうのイヤホンのように空気を振動させて音を出すメカニズムではありません。
しかしあまりにも大音量にすると、骨の振動がスピーカーの役目を果たしてしまうようで、いわゆる「音漏れ」はあるようです。ただし通常の使い方では気にならない程度。難聴の原因にもなりますので、一般的なイヤホンと同様に大音量で使うことはひかえたほうがよさそうです。
骨伝導ヘッドホンの選び方
さて、では実際に骨伝導ヘッドホンを購入しようと考えた場合、どのような点に注意して選べばよいのでしょうか。
有線か無線か
最近ではワイヤレスのイヤホンが人気になってきています。以前と比べて価格が安くなってきていますし、なによりもコードの煩わしさから解放されるメリットが大きいです。また、スマートフォンで音楽などを聴くため、Bluetoothを簡単に利用できる使用環境が整ったこともあります。
そしてもちろん、骨伝導ヘッドホンにもワイヤレスのものがあり、むしろそちらのほうが主流になっているようです。
また、有線の骨伝導ヘッドホンは価格的には安いタイプのものが多いのですが、イヤホンとはメカニズムが違うために実際に聞こえてくる音量が小さめになるケースが多いようです。その点、ワイヤレスのものはアンプ機能があるため、音量が小さいといった問題はないようです。
防水機能について
骨伝導ヘッドホンはスポーツをしながら音楽を聴くことを想定しているケースが多いためか、さまざまなレベルの防水機能をもつものがあります。中には水泳まで可能なものまでありますから、自分の使用シーンを考えて選ぶとよいでしょう。
防水機能のレベルは「IP規格」と呼ばれる等級で表示されています。IP規格では「IP○△」など表されており、△の部分が防水の等級です。たとえばIP56と記載されていれば、防水レベルは「6」ということになります。数字が大きいほど防水レベルが高いことを意味しています。
マイク機能について
骨伝導ヘッドホンのなかにはマイク機能が搭載されているものもあります。たとえば通話をするなど、骨伝導ヘッドホンをヘッドセットとして利用することを想定している場合はマイク機能をもつ製品を選ぶとよいでしょう。そのとき、ノイズキャンセリング機能が搭載されたものを選べばよりクリアな音声で通話ができます。
内蔵ストレージ
内蔵ストレージを搭載したモデルもあります。オーディオプレーヤー機能を搭載しており、USBなどでヘッドホン本体に音楽ファイルを保存して再生することができるので、水泳中などの使用に適しています。
その他の特徴について
骨伝導ヘッドホンはおおむね似たような形状をするものが多いですが、製品によって微妙に形状や重量が違います。長く使っていくためには装着感が自分に合っているかどうかはとても大事なことですから、もし可能であれば店頭で実際に試用してみるとよいですね。
また、骨伝導ヘッドホンは充電して使用するタイプのヘッドホンですから、一回の充電でどの程度の時間使い続けることができるかも確認すべき点です。
また、製品によって音質も違います。当然、価格が高いものほど音質のレベルが高いですが、これについても実際に使ってみて自分が納得できる音質かどうかも検討してから購入したいところですね。
骨伝導ヘッドホンの種類について
現在ではさまざまなメーカーから数多くの種類の骨伝導ヘッドホンが市販されています。もちろん使い方や求める機能、そして許容できる価格帯は人それぞれですから、どれがよいということではなく自分に合った製品を選ぶ必要があります。
各メーカーから複数の製品が発売されているため、どうやって骨伝導ヘッドホンを選んでいけばよいかは悩むところです。
そこで、ここでは参考としてAfterShokz社の骨伝導ヘッドホンを参考に自分に合った製品の選び方を検討してみます。
AfterShokz(アフターショックス)は2011年にニューヨークで誕生した骨伝導ヘッドホン専門の会社です。
もともとは軍事や警察用に設計された骨伝導ヘッドホンの特許技術を、一般の消費者の手に届くリーズナブルな価格帯の製品に導入するために設立されました。
現在では世界中で300の特許技術を保有しており、従来では不可能だった音楽を楽しむことが可能な音質の実現に成功しています。
常に新しい技術を活用して最新の骨伝導ヘッドホンを開発しているAfterShokz社ですが、現在は以下の製品を発売しています。
AEROPEX、XTRAINERZ、AIR、そしてTITANIUMの4種類の製品シリーズになっていますが、XTRQAINERZだけ他の骨伝導ヘッドホンと目的が違っています。ひとつずつ特徴を紹介していきます。
スタンダードタイプの「AIR」
AIR(AfterShokz)
現行シリーズのスタンダードともいえるAIRは、とりあえず「迷ったらこれ」と断言できるバランスのとれた製品です。
フルチタニウムのフレームは耐久性と柔軟に優れており、重さはわずか30グラム。平均的なメガネの重さが35グラムと言われていますので、ちょうどメガネをかけているのと同じくらいの感覚ですね。
フル充電すれば6時間使い続けることができるので、通常の使い方だと十分だといえます。また、IP55の防水設計ですので汗や通常の雨などは心配がないレベル。
また、ノイズキャンセリング機能付きのマイクが搭載されていますので、ヘッドセットとして使うことで通話も楽しめます。
AfterShokz AIR(エア)
¥15,268
従来品のTITANIUMより20%軽量化しつつも、PremiumPitch+ 技術を採用したプレミアムサウンド6時間のバッテリー駆動時間、IP55防汗設計などの高い性能を維持。
上級向けの「AEROPEX」
AEROPEX(AfterShokz)
AEROPEXはすべての面においてAIRよりもスペックが高い製品設計になっており、より新しい技術を搭載したヘッドホンを使いたい人にはおすすめです。
最新の骨伝導テクノロジーPremiumPitch2.0+を搭載しており、振動ユニットが頬骨に対して最適な確度を維持、従来モデルと比べて優れた中高音を実現しながら振動をより小さく抑えることに成功しています。また、BluetoothもAIRのバージョン4.2からバージョン5.0へと更新されています。
バッテリー持続時間が6時間から8時間へと増えているにもかかわらず、重量は26グラムとなっており、AIRから1割以上も軽量化されています。
また、防水仕様もIP67となっており、より防水機能の向上がはかられています。
AfterShokz Aeropex(エアロペックス)
¥19,998
前世代Airより音漏れを50%減少した上、気になる振動を最低限に控えることを達成した「PremiumPitch+2.0」を搭載。
低価格で初心者向けの「TITANIUM」
TITANIUM(AfterShokz)
一方、AEROPEXの半額以下の価格で購入できる廉価版のTITANIUMは、スペックにはそれほどこだわらないけれども十分な骨伝導ヘッドホンの機能を楽しみたい人におすすめです。
スタンダードモデルのAIRと比べても骨伝導テクノロジーや防水機能、バッテリー持続時間は変わりありません。
違うのはBluetoothのバージョンが4.1であるところと、本体がフルチタニウムではなく重量が6グラム重い点です。つまり、ヘッドホンとしての性能においてはスタンダードのAIRと違いはないとも言えます。
AfterShokz TITANIUM(タイタニウム)
¥9,768
特許取得済みの骨伝導技術とBluetoothワイヤレス接続により、耳を塞がずに快適に音楽を楽しめる骨伝導ワイヤレスヘッドホン。
オーディオプレーヤーの「XTRAINERZ」
XTRAINERZ(AfterShokz)
ほかの3製品と比べてXTRAINERZだけは目的が違っています。この骨伝導ヘッドホンは、Bluetoothでデータを受信して音声を出すタイプではなく、デジタルオーディオプレーヤーとして機能する製品です。
想定している目的はスイミングを含めたスポーツをしながらの使用です。そのため、防水規格もより高度なものとなっており、IP68を実現しています。激しい汗のほか、推進2メートルまでの海中や水中でも最大で2時間耐えることができるとしています。
本体には4GBのストレージが搭載されており、およそ1200曲を保存することができます。
AfterShokz Xtrainerz(エクストレイナーズ)
¥19,668
スイミング向けにデザイン。50気圧の環境でテストされ、2時間で最大2メートルまで潜水可能。IP68防水仕様に準拠で万全な防水性能を実現した。
ちなみに周波数特性はどの製品も20Hz~20KHzになっており、数値的には音質に差はないようです。ただ、AEROPEXは振動の伝え方に最新技術を取り入れることで、低音の音質を向上させているようです。これについては実際に店頭で音質を確かめてみるとよいでしょう。
このようにAfterShokzはとてもわかりやすいシリーズ設計になっていますが、ほかのメーカーのものを検討するときもAfterShokzの製品と比較することで理解しやすいと思います。
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今回、自分自身も骨伝導ヘッドホンの購入を検討していて詳しく調べてみました。特にAfterShokzは店頭で実際に使ってみてその音質のよさに衝撃と新しい聴覚体験を実感したので詳細に検討しました。
最後にひと言あるとすれば、AfterShokzは確かにとても優れた技術を搭載したヘッドフォンだと感じましたが、ウェブサイトの重さには正直どうかと思いました。記事の執筆中に何度もPCが固まり、作成済みの文章を飛ばしたことは忘れられません。