あの淡泊な味と歯ごたえが何ともいえない「フグ」を巡って、佐賀県と業界団体が争っているようです。食品衛生法で禁止されている「フグ肝」が、ある方法によって食べられるかも知れないという話。詳しく見ていきます。
フグ毒
日本人にとても人気があるフグですが、命に関わる猛毒をもっていることはよく知られています。毎年30件ほどのフグ中毒が発生しており、日本で起こる食中毒による死亡者の半数以上を占めるというデータもあります。
フグの毒は、「テトロドトキシン」と呼ばれる神経毒で、青酸カリの約1000倍とも言われています。食後20分から3時間でしびれや麻痺の症状が起こり、重症化すると呼吸困難で死亡することがあります。有効な解毒剤もありません。
一般に肝臓や卵巣、皮の毒が強いとされていますが、これらを水にさらしたり塩もみなどで毒を抜くことはできず、一般的な加熱では分解しないため、フグの取り扱いには専門の知識や技術が必要となります。フグによる食中毒の多くは、自分で釣ったりもらったりしたフグを家で調理して食べたことが原因です。
フグが毒を作っているわけではない
このように致死率も高いフグ毒ですが、意外にもフグが自ら作り出しているわけではないという説が有力になっています。
もともとは海を漂う有毒プランクトンなどが作り出した毒素を貝類やヒトデなどが体内に取り込み、これらをエサとして食べたフグの体内に蓄積されたというわけです。
フグ自身はテトロドトキシンに対して耐性をもっているため中毒にはなりませんが、成長する過程で体内に溜め込んでいきます。いわゆる「食物連鎖によって生物濃縮された毒」というわけです。
それでは、毒素を含むエサを食べなければどうなのでしょうか。つまり、養殖したフグであれば毒素をもたないのかも知れない。
養殖したフグを観光資源にしたい佐賀県
フグの養殖は実際にされています。佐賀県によると、殺菌したきれいな海水と、毒素のないエサを使って陸上の施設でフグを養殖すれば、毒のないフグを育てることができるのだという。
そして2004年、県内でのみフグ肝を提供できる「フグ肝特区」としての認定を食用解禁を国に申請しました。
食品衛生法には、食品や添加物に有毒の疑いがあっても「人の健康を損なう恐れがない」場合は提供できるという例外規定があるのだという。
もし佐賀県だけが「フグ肝特区」として認められれば、全国で唯一安全に「フグ肝」を食べることができる県となるため、非常に画期的な観光資源とすることができるというわけです。
しかし、過去の申請では、「フグ肝特区」は認められませんでした。
- フグ毒(テトロドトキシン)によるトラフグの毒化機構は十分に明らかとはいえない。
- フグの毒化機構が十分に解明されていない以上、養殖方法における危害要因及び制御するべきポイントを特定することが不可能である。
- 提案された養殖方法について安全性確認のための実験データが現時点では十分とは言い難いため、本養殖方法が恒常的にトラフグの無毒化に有効であるかどうかの判断が難しい
(内閣府食品安全委員会・リスク評価)
つまり、フグ毒についてはまだよくわからない部分があるため、「きれいな海水とエサを与えて陸上で養殖する」という方法で完全に無毒化できるかどうかは、まだわからないわけです。
全匹検査を実施すればどうか
たとえきれいな水を使って特殊な養殖法を使ったとしても、絶対安心だとは言い切れない。となれば、すべてのフグを検査して、安全なことを確認してから提供してはどうだろうか。
佐賀県は今年2月、この方法を厚労省に伝えてフグ肝の食用解禁を求めました。
これに対して、業界団体は真っ向から反対姿勢を示しているといいます。
「食中毒が出ればフグ食への信頼がなくなる」(全国ふぐ連盟会長)
もしフグ肝が佐賀県で解禁となれば、同県での観光の起爆剤になり得ます。しかし、仮にたった1件でも食中毒が発生してしまったら、フグ食全体への影響が発生する可能性があります。そうなれば、佐賀県だけの問題ではなくなるわけです。
天然トラフグで日本一の山口県下関市の市長は、フグ肝について「食文化から言っても邪道」と話しており、「認められれば肝を食べても大丈夫という誤った認識が広がりかねない」ともコメントしています。
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5月からは内閣府の食品安全委員会が開催され、安全性について審議が続けられています。来年の春には結論が出る予定とのことで、全国のフグ業界さらには水産業全体への影響が出ることが予想されます。
参考:読売新聞・厚生労働省