記憶力を高めてくれる夢のような薬が見つかったかも知れない。しかも100年以上も前からあって一般の人でも簡単に手に入る物質「メチレンブルー」だという。
メチレンブルー
メチレンブルーは、19世紀にドイツの化学者ハインリッヒ・カロによって初めて合成された物質で、暗緑色の結晶粉末です。水に溶けてとてもきれいな青色の水溶液になります。
この物質は線維を染める染料にもなりますが、生物実験の分野では細胞を染めるための染色液としてよく使われています。
また、殺菌作用があるために魚の「尾ぐされ病」などに使われています。金魚などを飼育した経験のある人ならメチレンブルーと聞いてすぐにピンときたかも知れません。安いものだと500円程度で誰でも購入することができます。
メチレンブルーの殺菌効果は、一般的な抗菌薬と違って特定の生理作用を阻害するわけではありません。単なる還元作用によるもので、発生する活性酸素によって殺菌効果を発揮します。そのためメチレンブルーによる魚毒性は低く、副作用はほとんどないとされています。
メチレンブルーを経口投与した実験
メチレンブルーによる記憶力の増強効果については、30年以上前にすでにラットやマウスを使った実験で、低用量の投与による長期記憶への効果が示されています。
また人間での効果についても、低用量のメチレンブルーを1回投与することで長期的な「文脈記憶」などを増強することが最近の研究でわかっています。しかし短期記憶などに与える影響や、あるいは脳の神経細胞との関係など詳細なメカニズムについてはわかっていませんでした。
そこで、テキサス大学の研究グループは人間にメチレンブルーを投与し、MRIを使って脳の活性を分析して脳への影響を詳しく調べる実験を行いました。
研究グループは、22~62歳の26人の被験者に低用量のメチレンブルーを経口投与し、1時間後の脳の活動をfMRIを使って調べました。その結果、「島皮質」と呼ばれる脳の領域の反応が増加することがわかりました。
島皮質は大脳皮質の領域の一つで、痛みや喜怒哀楽、不快感、恐怖などの感情の体験に重要な役割をもつことが知られています。
さらに、記憶を制御する前頭前皮質や知覚情報を処理する頭頂葉、視覚情報処理の中枢である後頭皮質など、短期記憶を取り出すときに働く部位の反応についても増加することが明らかになりました。
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今回の研究結果から、メチレンブルーが長期記憶のほかに短期記憶についても影響を与えること、さらに脳神経における影響についての詳細なデータがMRIによって得られました。
まだ基礎的な研究段階ではありますが、メチレンブルーの低用量投与による薬物動態や副作用についてはすでによく研究されており、また人体への影響は小さいことから、例えば認知症の治療や、あるいは記憶力を高めるための薬剤として役立つ可能性があります。
Multimodal Randomized Functional MR Imaging of the Effects of Methylene Blue in the Human Brain