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食欲がコントロールできない「レプチン抵抗性」のメカニズムが明らかに

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人間や動物は本来、食べ過ぎると食事を抑制する働きが脳内に備わっています。そのため、過食による体重の増加や肥満は自然と抑えられるはずでず。ところが、「レプチン抵抗性」と呼ばれる現象が起こると、食べ過ぎを抑える脳の仕組みが損なわれてしまいます。




レプチンによる過食の抑制

食べ過ぎると体内では脂肪が増えて肥満になります。しかし、脂肪細胞から分泌される「レプチン」と呼ばれるホルモンが脳内の弓状核という領域に作用して、食事を抑えます。この脳の領域は摂食行動に関係する領域であることから、「摂食中枢」とも呼ばれます。

このレプチンを遺伝的にもたない人や動物の場合は、過度な食事の抑制が効かないことから異常に肥満してしまいます。

また、レプチンを正常にもっている場合であっても、その効果が弱い場合も肥満となってしまい、レプチンを投与しても肥満を治療することができません。この症状は「レプチン抵抗性」と呼ばれています。

レプチン抵抗性を改善する薬剤は画期的な肥満薬になると考えられますが、現在のところそのような薬剤は開発されていないのが現状です。

レプチン抵抗性のメカニズム

なぜレプチンによる摂食抑制の効果が弱くなる「レプチン抵抗性」が生じてしまうのでしょうか。この現象の発生メカニズムについて、基礎生物学研究所の研究グループが解明することに成功しました。

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レプチン抵抗性形成のメカニズム(画像:基礎生物学研究所)

研究グループによると、正常な状態であれば脂肪細胞から放出されたレプチンは、脳の摂食中枢で「レプチン受容体」に結合し、摂食行動を抑制します。

ところが、レプチン抵抗性の状態になってしまうと、「PTPRJ」と呼ばれる酵素がレプチン受容体の活性化を抑えてしまいます。

そのため、レプチンが正常に放出されて受容体に結合しても、その後の摂食行動を抑制する働きが損なわれてしまい、うまく機能しない結果となってしまいます。

レプチン抵抗性の分子メカニズム

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レプチン抵抗性形成のメカニズム(画像:基礎生物学研究所)

レプチンによる摂食抑制の効果をPTPRJが阻害するメカニズムも詳しくわかっています。

レプチンは、摂食行動をコントロールするためのホルモンです。ホルモンが受容体に結合して細胞の働きをコントロールする場合は、一般的には「リン酸化」を介して行われます。

脂肪細胞から放出されたレプチンが弓状核に情報を伝えて摂食行動をコントロールするとき、細胞表面にあるレプチン受容体がリン酸化されて細胞内に情報伝達されます。

レプチン受容体のリン酸化には、JAK2はレプチン受容体に結合している「JAK2」というタンパク質が関係します。

レプチンがレプチン受容体に結合すると、同じくレプチン受容体に結合しているJAK2の分子内にあるチロシンをリン酸化し、さらにレプチン受容体をリン酸化するという化学反応が行われます。

ところが、PTPRJがこの反応の邪魔をします。PTPRJはタンパク質中のチロシンについたリン酸をはずす働きをもっています。

つまり、PTPRJはJAK2にあるチロシンのリン酸をはずしてしまうため、レプチンによるレプチン受容体のリン酸化という反応を阻害することになります。

この酵素「PTPRJ」は脳の摂食中枢で発現しており、正常な状態ではレプチンによる摂食抑制効果が強く出過ぎることを抑えています。しかしこの酵素の量が多すぎると、レプチンの働きを強力に抑えてしまうことから、摂食のコントロール機能が損なわれてしまうというわけです。

実際、マウスを高脂肪食で2カ月間飼育したところ、摂食中枢におけるPTPRJの発現が上昇しており、レプチン抵抗性が形成されることが実験で明らかになっています。

PTPRJの阻害薬開発に期待

今回の研究結果からPTPRJがレプチン抵抗性の発症に関わっていることが明らかになりました。PTPRJを阻害する薬剤を開発することができれば、レプチン抵抗性を抑えて肥満の治療につながります。

また、研究グループによると、PTPRJはインスリンの働きについても抑制することが明らかになっています。もしこの酵素を標的とする薬剤の開発に成功すれば、肥満の治療薬としてのほか、糖尿病の治療薬としても役立つことが期待されます。