肥満に関係するとして「UCP1」という遺伝子が知られています。九州大の研究グループの実験によって、「やせ型遺伝子」をもつ人は寒さに強いことがわかりました。この遺伝子は、人類が寒冷地に進出するためにも重要であったことが示されました。
現生人類「ホモ・サピエンス」は、今から約10万年前にアフリカで誕生しましたが、それから3万年後には世界にさまざまな地域に進出しており、その中には寒冷地も含まれていました。
体内で熱を発生させる仕組みの中で、「非震え産熱」と呼ばれる生理反応があります。これは筋肉の収縮を行うことなく熱を発生させる仕組みで、ホモ・サピエンスが寒冷地に進む際にはこの反応に関係する遺伝的変化が重要であったと言われています。
この「非震え産熱」は、褐色脂肪細胞においてエネルギー代謝に関係する遺伝子「UCP1」が関与することが報告されています。
研究グループは、九州大にある「環境適応実験施設」において実験を行いました。男子大学生47人に「非震え産熱」が起こる16度の部屋に90分間にわたって滞在してもらい、その間の酸素摂取量を測定しました。
酸素摂取量を測定すると、「非震え産熱」の活性を調べることができます。つまり、酸素摂取量が増えると寒さに対して産熱していることを示します。
また、被験者となった大学生のDNAからUCP1遺伝子のタイプを分析して、非震え産熱と遺伝子タイプの関係を調べました。
その結果、やはり特定のUCP1タイプでは他のタイプと比べて産熱能力が高いことが判明しました。
さらに、このタイプの頻度について国際ゲノム情報データベースを調べたところ、年平均気温が低い地域に住む集団ほど高いことがわかりました。
「非震え産熱」の効率が高いタイプのUCP1遺伝子をもつのは、英国やフィンランドなどヨーロッパ地方で多く、一方でアフリカでは産熱効率が低い遺伝子をもつ人が多いことがわかります。
UCP1遺伝子はもともと肥満症との関係が知られています。体内に蓄えられた脂肪を熱エネルギーに変換しやすいやせ型のタイプのUCP1をもつ人は、寒冷な地域で多くいることがわかりました。
そのため、UCP1の遺伝的変化が人類を寒冷地へと進出させる要因の一つにした可能性があります。