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「誰かのせい」にしてしまうのはなぜか?他責思考の脳内メカニズムと克服法

仕事でのミス、人間関係のトラブル、目標の未達成。問題が起きたとき、「自分の責任だ」と反省する自責思考に対し、「上司の指示が悪かった」「運が悪かった」「環境のせいだ」と外部に原因を求めるのが他責思考です。なぜ、私たちは無意識のうちに「誰かのせい」にしてしまうのでしょうか?これは単なる性格の問題ではなく、人間の根源的な自己防衛本能と、脳科学に基づいた認知メカニズムが深く関わっています。




他責思考を生み出す「脳の快感原則」

他責思考のメカニズムを理解する鍵は、「責任回避による短期的な安心」を脳が学習するという点にあります。

人が失敗や批判に直面したとき、脳内では扁桃体などが関わる不安やストレス、自尊心の低下といったネガティブな感情(罰)が引き起こされます。脳は本能的にこの苦痛を避けようとします。

責任を自分に求め(自責)、自己否定的な感情が生じると、心理的な苦痛が伴います。しかし、「運が悪かった」「あの人が協力しなかった」と外部に責任を転嫁する(他責)と、この苦痛を一時的に遮断できます。

脳にとって、これは「責任を取る苦痛」から逃れる「楽な道(ショートカット)」であり、ネガティブな感情からの解放という名の「心理的報酬」として機能します。

この「他責 → 苦痛回避 → 安心」というパターンが繰り返されると、大脳基底核などが関与し、他責が「効率の良い思考法」として無意識的な習慣(クセ)として定着してしまいます。脳は常にエネルギー効率を求めるため、自己改善という努力が必要な自責よりも、自己正当化という楽な他責を優先してしまうのです。

また、他責思考は、「成功は自分のおかげ(内的な帰属)」「失敗は他人のせい(外的な帰属)」と考える自己奉仕バイアスの極端な現れでもあります。

複雑な認知処理を担う前頭前野が、自分に都合が良いように原因を解釈する際に、感情をコントロールする領域と社会的な認知を行う領域との間で、特定の活動パターンが見られる可能性があります。他責傾向の強い人では、自分に都合が良いように原因を解釈する際に、客観的な分析が抑制されてしまう可能性があります。

他責思考に陥りやすい人の心理的特徴

脳のメカニズムに加え、個人の生育環境や心理状態も他責思考を強化します。特定の心理的特徴を持つ人は、特に他責思考に陥りやすい傾向があります。

一つに、極度にプライドが高く、自己評価が過剰な人は、失敗が自己イメージを傷つけることを極端に恐れるため、自分の非を認める代わりに他者を非難する傾向が強くなります。これは、その脆い自尊心を守るための防御反応です。

次に、自分自身をありのまま認められない自己肯定感の低さも、他責思考の一因です。「失敗すると他者から嫌われる」という強い不安から、失敗を隠蔽したり、他者に責任を押し付けたりすることで、周囲からの承認を維持しようとします。

また、「自分は被害者だ」という被害者意識を抱えることで、周囲の同情や配慮を引き出し、心理的なエネルギーを補充しようとすることもあります。

さらに、過去の経験から「自分の行動は結果に影響しない」という学習された無力感を抱く人も、他責思考に陥りやすいです。この感覚が強いと、「どうせ自分には無理だから」と、問題の原因をすべて外部に求め、自ら行動して改善しようとする意欲を失ってしまいます。

他責思考を「自責思考(当事者意識)」へ変える

他責思考が習慣化してしまっている場合でも、脳の可塑性を活かし、意識的な訓練によって思考パターンを変えることは可能です。

まず、自分の思考パターンを客観的に認識し、問題が起きた際に「①起きた事実」「②その時の感情」「③誰のせいだと考えたか」「④客観的に見て自分にできたことは何か」を書き出す習慣をつけます。

このとき、「責任」と「非難」を分けることが重要です。他責思考は非難を目的としますが、自責思考は事態を改善するための当事者意識(行動)を目的とします。

次に、口癖や思考パターンを意識的に変える練習をします。「上司の指示のせいで失敗した」という思考を、「上司の指示に依存したおかげで、自分の判断力の欠如に気づけた」のように、「〜のせいで」を「〜のおかげで」という学びの言葉に変換します。

また、「なぜこんなことが起きた(誰が悪い)?」と問う代わりに、「この状況で、次に自分は何ができるか?」と問いかけを変えることで、思考の焦点を問題解決へと移します。

最後に、他責思考に伴う「自分では何もできない」という無力感を打ち破るため、小さな目標を設定し、それを達成する成功体験を積み重ねます。

この成功体験が脳の線条体などを活性化させ、「自分の行動は結果に影響する」という自己効力感を強化します。この感覚が育つことで、困難に直面した際に責任を回避するのではなく、「自分が動けば解決できる」という当事者意識へと、思考の舵が切られるようになります。

他責思考は、一見楽な思考法ですが、長期的には成長を阻害し、人間関係の信頼を損なう「悪習」です。脳が選ぶ「楽な道」を認識し、意識的に「成長の道」を選ぶ訓練を続けることこそが、他責のクセを克服し、人生の主導権を取り戻す唯一の方法と言えるでしょう。