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細胞内のシグナルをアナログからデジタルに変換する「ERK」の仕組みを解明

 細胞の運命決定をつかさどるシグナル伝達分子「ERK」がアナログなシグナルをデジタルに変換する仕組みを解明したと、理化学研究所の高橋恒一チームリーダーらの研究グループが英科学誌「Nature Communications」で発表した。細胞の運命を人為的に操作するなどの応用が期待される。

 多細胞生物では、細胞は常に増殖や分化、生存、細胞死などを繰り返しており、そのような「細胞運命決定」を制御するシグナル伝達分子に「ERK」がある。

 細胞運命決定とは、細胞が受けた刺激(情報)によって「増殖するかしないか」「分化するかしないか」を決めるデジタルな現象。一方で、ERKの活性化はリン酸化ERKの量という、刺激の強度と相関のあるアナログな現象であることが知られている。

 すなわち、リン酸化ERKの量というアナログなシグナルからデジタルなシグナルに変換する何らかの仕組みがあると考えられるが、よくわかっていなかった。

 研究グループは、ERKがリン酸化を受けて活性化すると細胞質から核へ局在する「核移行」が起こることに着目した。

 ライブイメージングや免疫染色でERKの核移行を観察したところ、ERKの核移行応答には閾値があり、その前後でスイッチ的に起こり、ERKのシグナルは核移行の過程でアナログからデジタルに変換されることを発見した。

 また、核膜孔複合体を構成するヌクレオポリンがERKのデジタルな核移行応答に重要であることが明らかになった。

(via 理化学研究所