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サバがマグロを産む!最先端技術がマグロ絶滅の危機を救うか?

マグロ
 現在、クロマグロに絶滅の危機が迫ってきているといいます。2014年11月、国際自然保護連合の「レッドリスト」では太平洋クロマグロが「絶滅の危険が増大している種」を意味する絶滅危惧2類に指定されました。大西洋クロマグロの現状はより厳しいもので、「ごく近い将来の野生の絶滅危険性が極めて高い」を意味する絶滅危惧種1A類となっています。原因は、需要増大によってもたらされた過剰漁獲です。




 マグロの絶滅を回避すべく、漁獲量を減らす試みもありますがあまり効果はないようです。マグロと言えば「近大マグロ」が有名です。天然資源から捕獲した稚魚を育成して産卵させ、その稚魚をまた育成して産卵させるという、「完全養殖技術」が開発されました。非常に画期的な技術ですが、しかしながら成熟したマグロは体重60~80キロ、体長1.5メートルにもなるため非常に大きな養殖場が必要となることに加え、成熟サイズになるまで5年もの年月がかかります。

 もし、マグロより小さな体をもち、より短い時間で成熟する「サバ」にマグロの卵を産ませることができたなら…そんな夢のような技術がいま、現実になろうとしているようです。成熟したサバは体重わずか300グラム程度、そして成熟までの期間も1年程度で済みます。

 マグロの完全養殖には非常に大きな海中のイケスが必要になりますが、サバ程度の大きさであれば環境管理が容易となる水槽で飼育ができるという。水槽飼育であれば、光と温度を調節することで1年間に複数回、卵を産ませることができる。

 しかし本当に、「サバにマグロを産ませる」なんていうことができるのでしょうか。どうやらかなり現実的になっているようです。マグロから精子と卵のもとになる細胞を抽出してサバに移植することで、継続的にマグロの精子と卵をつくり続けるサバを生み出すことができるという。精子と卵のもとになる細胞は、卵からふ化したばかりの、またはふ化直前の仔魚がもつ始原生殖細胞を使います。

 ただしマグロの卵と仔魚は小さすぎるため始原生殖細胞の採取が困難であり、最初はより大きな卵と仔魚をもつニジマスから研究を開始しました。そして見事にニジマスをヤマメに産ませることに成功しました。ここまでの研究経過はサバからマグロが産まれる!?(岩波科学ライブラリー)にまとめられています。(リンクはAmazon)

そして今月24日、マグロを使った実験についての記事が日本経済新聞に掲載されました。

 東京海洋大学の吉崎悟朗教授らは、クロマグロの卵と精子になる生殖細胞をサバに移植する実験に成功した。今夏にも産卵して交配が可能になり、マグロの稚魚が誕生する見込みだという。絶滅危惧種に指定されたクロマグロを養殖して安定的に供給できる技術として実用化を目指す。

 記事によるとマグロから採取した始原生殖細胞をサバに移植することに成功した段階であることがわかります。もしこのままうまくいけば、今年の夏には「サバがマグロを産む」が実現することになります。「海洋大マグロ」のできあがりですね。

参考:東洋経済/日本経済新聞