人間の大脳は100億個以上もの神経細胞からなる、とても複雑な構造をもった組織です。大脳の神経回路の構造については、これまでにさまざまな研究がなされてきましたが、その複雑さゆえか、いまだに不明な点が数多く残されています。
大脳の表面には、厚さ1ミリから2ミリメートルほどのシート状の構造である「大脳皮質」があります。大脳皮質には、それぞれ感覚や運動、言語、思考など異なる機能をつかさどる領域に分かれています。
1960年代ごろからのネコやサルなどの研究では、いわゆる「皮質カラム」と呼ばれる構造が発見されています。皮質カラムとは、直径300から500マイクロメートルほどの円柱状の構造です。
このカラム構造は、動物の種が違っても大脳皮質のサイズが違っていてもほぼ一定の大きさをもつことから、大脳で情報処理を行う共通する最小機能単位である可能性があります。
一方、大脳皮質の平面に対して垂直方向の構造をみてみると、機能が異なる6つの層に分かれています。このうち、神経細胞の分類が進んでいる第5層について、理研の研究グループがマウスの脳を使って構造を解析しました。
従来の研究では、マウスの脳を薄いスライスにして解析していましたが、研究グループは脳を「丸ごと」3次元的に解析する新しい技術を使いました。
この方法では、色素を使って複数のタイプの細胞をそれぞれ可視化して、脳全体を透明化することで3次元的に撮影します。その結果、第5層の神経細胞、数千から数万個の位置を特定しました。
大脳皮質のマイクロカラムと格子配列(理化学研究所)
解析された構造を調べると、マウスの大脳皮質の第5層ではマイクロカラム構造がハニカム状の「六方格子配列」をとって並んでいることがわかりました。
また、それぞれのマイクロカラムの神経活動を解析して機能を調べたところ、個々のマイクロカラムは特定の情報を処理していて、幅広い領域で共通の機能単位として動作していることが明らかになっています。
個々のマイクロカラムは、要素的な情報処理を担う「機能モジュール」と考えられ、そして多数のマイクロカラムによって行われる並列処理によって、第5層の情報処理を担っていることが示されています。
このような回路構造は、異なるさまざまな領域「皮質領野」に存在するため、感覚や運動、言語処理といった多様な大脳機能で共通な情報処理を行っていると考えられます。