作業記憶(ワーキングメモリ)に前頭葉のヒスタミンH3受容体が関係していることがわかりました。「頭の回転の速さ」とヒスタミンの関係や認知機能障害の新たな治療法について研究が進む可能性があります。
「作業記憶」とは、複数の情報を一時的に保持しながら同時にいくつもの処理を行う能力のことで、複雑な思考や行動のベースともなる重要な認知機能のひとつです。
会話をする際に、前に述べたことを踏まえながらスピーディーに次々と会話を展開していく人を見たとき、「頭の回転がはやい」と感じます。
あるいはいくつもの作業を間違うことなく同時に進めることができる人も頭がよいと感じることがありますが、これらはまさに「作業記憶」がうまく機能している例です。
これまでの研究から、作業記憶には前頭葉の働きが重要であることがわかっています。また、動物を使った実験から作業記憶に「ヒスタミンH3受容体」が関与していることが報告されています。
しかしながら、作業記憶にヒスタミンH3受容体がどのように関与するかは詳しくわかっていません。
そこで量子科学技術研究開発機構の研究グループは、fMRIとPETを用いてヒスタミンH3受容体密度と作業記憶との関係性を調べました。
健常者10名の作業記憶に関係する脳活動をfMRIで計測し、さらに同じ被験者に対してPET検査を行って脳のヒスタミンH3受容体密度を測定しました。
これらの結果を分析したところ、作業記憶に関わる前頭葉の活動が強い人ほど、その領域におけるヒスタミンH3受容体密度は低いことがわかりました。
作業記憶に関わる外側前頭前野の脳活動とヒスタミンH3受容体密度との負の相関関係(量子科学技術研究開発機構)
別の研究から、認知機能障害のある統合失調症患者の前頭葉にはヒスタミンH3受容体が多数存在することが確認されています。
また、ネズミを用いた実験では、ヒスタミンH3受容体の働きを拮抗薬で阻害してヒスタミンの放出量を増やしたところ、作業記憶が改善することも報告されています。
今回の研究からは、作業記憶に関わる外側前頭前野の活動が高い人はヒスタミンH3受容体密度が低いことがわかりました。これは、ヒスタミンやほかの神経伝達物質の合成や放出を抑制する作業が小さくなることで、それらの物質の放出量が多くなることが予想されます。
つまり、作業記憶の働きのよさにヒスタミンなどの神経伝達物質の放出量の多さが関係している可能性があるということです。
研究グループは、今後は統合失調症を含めた精神・神経疾患患者での認知機能の低下と、ヒスタミンH3受容体との関連を調べるとしています。ヒスタミンH3受容体を標的とした新たな治療法の開発につながることも期待できます。