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ペヤングを襲ったゴキブリ混入事件 販売休止を決断させた「カタラーゼ試験」とは何か

大人気カップ麺「ペヤングやきそば」にゴキブリが混入した商品が見つかった問題で、製造元のまるか食品は当面の間、販売を休止することを発表しました。ホームページでは、「外部委託期間からの分析結果報告をもとに、社内で検証を行いましたが、弊社製造過程での混入の可能性は否定できませんでした」としています。ところで、この問題で「混入の可能性」を否定するためにはどのような証拠が必要であったのでしょうか。




事件の概要

混入が発覚したきっかけは、商品の購入者がツイッターに「ペヤングからゴキブリが出てきた」というコメントとともにアップされた、フライ麺の中に虫が入り込んだ写真でした。このツイートは一気に拡散され、ペヤングに大打撃を与えました。

製造元のまるか食品は、問題の商品を回収して外部の分析期間に検査を依頼したといいます。その結果、麺の間に入り込んでいた黒い物体は体長約2センチの「クロゴキブリ」と判明。ただし、問題の虫が製造過程で入り込んだものなのか、製造後に意図的に入れられたものなのかを判断する必要があったわけです。

ネット上では、「自作自演ではないか」として問題の写真を検証したサイトまで出てきました。ツイッターでも「麺を湯煎して溶いたあとに混ぜて乾燥させて固めたのでは」といった書き込みも出てきました。

写真をアップした購入者が意図的に混入させたかどうかは別にしても、少なくとも製造中に入り込んでいないことを実証する方法がありました。

ペヤングの麺は油で揚げてあります。もし問題の「虫」が油で揚げられた痕跡がなければ、製造過程で入り込んだことが否定されるため、製造元の「無罪」が証明されるわけです。

そこで今回使用されたのが「カタラーゼ試験」という検査方法でした。

カタラーゼ試験とは何か

カタラーゼ試験

カタラーゼ活性試験陽性(町田予防衛生研究所)

カタラーゼ試験(またはカタラーゼ活性試験)とは、食品などに混入した「異物」が加熱されたものかどうかを調べる試験です。異物としては、今回のような昆虫であったり、毛髪なども対象になります。

カタラーゼという酵素は、嫌気性菌以外であれば、ほとんどすべての生物中に存在します。カタラーゼは過酸化水素を水と酸素に分解します。

2H2O2→(カタラーゼ)→2H2O+2

つまり、生物由来の異物に過酸化水素水を反応させると酸素が発生し、激しく発泡します。これが、カタラーゼ反応「陽性」です。

ところがもし異物が加熱されていると、カタラーゼが熱により不活化してしまうため、過酸化水素水を添加しても反応は起こりません。つまり発泡しません。これが、カタラーゼ反応「陰性」です。

今回の場合、もしペヤングの麺に入り込んでいた異物である「ゴキブリ」が、カタラーゼ反応「陽性」であれば、ゴキブリは加熱されていない状態であることが判明するため、製造過程で入り込んだわけではないといえるわけです。

ところが、今回は「混入の可能性は否定できなかった」としています。つまり、カタラーゼ反応「陰性」であったわけです。ただし、意図的に加熱したゴキブリを麺の中に入れた可能性は否定できません。そういった意味で、「混入の可能性は否定できなかった」という微妙な言い方になっているわけです。製造中に入り込んだ証拠はないけれども、その可能性を否定することもできなかったんですね。

カタラーゼ試験は、今回のように商品に入り込んだ異物について検査することもありますが、たとえば飲食店などでも使われるようです。レストランなどで提供された食べ物に「虫が入っていた」といった苦情が出ることがあります。このとき、店側としてはカタラーゼ試験で虫の加熱されているかどうかを調べて、もし非加熱の状態であれば、調理中に混入していないことを立証することができるわけですね。

事件は思わぬ展開に…

今回の一件、まるか食品は「原因不明」としました。しかし全工場の生産を自粛し、販売を休止しました。自主回収もすすめており、また問題の商品とは別のラインで製造された商品についても回収し、返金にも応じるとしています。会社としては最大限の対応をしました。その結果、予想もしない状況が生じています。

ペヤングはロングセラー商品でもあり、全国からは販売中止を嘆くペヤングファンが続出しました。ネットオークションではペヤングが出品され、価格が高騰。さらにツイッターに写真をアップした購入者を攻撃する書き込みまで続出しました。

ペヤングのゴキブリ混入問題は製造元に大きな打撃を与えたわけですが、製造過程での混入を否定できないと判明した時点で最大限の対応を決定しました。その結果、逆風が追い風に変わったわけですね。

画像:Peyoung Super big yakisoba