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バーチャルリアリティ空間を使って飛行するハエの脳を解析

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画像:理化学研究所

動物はエサなどを探し出すとき、脳はどのようにして外界の情報を処理しているのでしょうか。理化学研究所の研究グループは、ショウジョウバエに「バーチャルリアリティ空間」で探索行動をさせて、脳の機能を調べる方法を開発しています。




動物がエサなどを探し出すときはさまざまな情報が処理されています。例えば、視覚などを使って外界の状況を認識して、過去の記憶を手がかりに食べものをかつて得ることができた場所を探しに行きます。

自分が現在いる場所は、自分がどの方向にどれくらい動いたのかといった「自己運動」を判断することで知ることができます。

このように、動物の探索行動においては、感覚、記憶、そして自己運動などの情報を脳内で処理することが行われています。

ショウジョウバエを使った脳活動の解析

動物の探索行動に関する能力は哺乳類や昆虫など多くの動物に共通するものです。しかし、哺乳類は脳の構造が複雑過ぎるため、より単純な動物を使って調べるほうが適しています。

そこで、研究グループは動物の探索行動における脳機能を調べるため、体長わずか3ミリ程度のキイロショウジョウバエを用いて「バーチャルリアリティ」を利用した実験を行いました。

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ハエに探索行動をさせながら脳の情報処理を調べるため、実験装置ではハエの体を固定しました①。固定の仕方を工夫しており、ハエは自由に羽を動かすことができます。

ハエの周囲にはディスプレイを設置しており、バーチャルリアリティ空間を実際に移動しているかのように錯覚させます②。

ディスプレイに表示させる画像は、ハエの羽ばたきに連動します。羽の動きと羽ばたき音からハエが飛ぼうとしている進行方向を推定し③、その結果をディスプレイに反映させます。

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例えば、ハエが右に曲がろうとしている瞬間には、景色が左に動くようにディスプレイの画像を動かし、反対に左に曲がろうとすれば景色は右に移動します。このようにして、ハエは固定されているにもかかわらず、あたかも実際に動いているかのような錯覚を起こさせます。

ハエは物体の位置を記憶している

このバーチャルリアリティ装置を使ってハエが空間内を旋回しているような状況を作り出し、その中でハエがどこに飛ぼうとしているかを調べました。

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その結果、ハエは今現在見ている景色だけではなくて、数秒前に見た景色を覚えており、その記憶を使って次にどこへ向かって飛ぶかを決めていることがわかりました。

探索行動に関係する神経細胞

次に、飛行しているハエの脳内ではどのような活動が行われているかを調べました。

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測定にはカルシウムイメージング法と呼ばれる実験手法が用いられました。この方法では、カルシウムイオンの濃度によって明るさが変わる蛍光分子によって脳活動を視覚化しています。神経細胞が興奮するとカルシウムイオン濃度が上昇するため、現在活動している神経細胞を特定することができます。

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昆虫の脳にある領域の一つに「バルブ」と呼ばれる部位があります。この領域は、視覚に関わる領域からの信号を受け取り、「楕円体」という探索行動に関与する霊異記に信号を送ります。

実験の結果、このバルブの活動を抑制するとハエの記憶能力が損なわれ、記憶を使った探索行動ができなくなることがわかりました。

また、実際にバーチャルリアリティ空間を探索しているハエの脳活動を記録すると、バルブにある特定の神経細胞が、数秒前に物体があった位置を記憶する情報を伝えていることもわかりました。

さらに別の細胞群では、自分自身が今どこへ旋回しているかという自己運動の情報を伝えていました。また、これら2つの細胞群では、それぞれ今見えている物体の位置情報をも伝えていることがわかりました。

これらの測定結果を総合すると、ハエの脳にあるバルブでは、「記憶」「運動」「視覚」という異なる3種類の情報を伝えており、記憶と運動はそれぞれ別の細胞群が担っているというわけです。

記憶と運動それぞれの情報を伝える細胞群は、いずれも近接した部位から情報を受け取り、そしていずれも近接した部位へと情報を送っています。

つまり、記憶と運動にかかわるそれぞれの情報は、並行して走る独立した2種類の神経回路によって伝達されていることになります。

今回の実験では、ショウジョウバエを用いてバーチャルリアリティ空間を作り出した実験装置による解析方法が確立されました。今後、さらに複雑な情報の処理過程が明らかになることで、動物が効率的にエサなどを探し出す脳のしくみが解明されることが期待されます。

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