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とうとう培養肉で「サイコロステーキ」を生み出すことに成功する

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将来に訪れるであろう食糧不足に備えて世界中で「培養肉」の研究が進められていますが、とうとう細胞培養で「サイコロステーキ」を作製することに成功しました。




日本では今後の人口減少が問題視されていますが、世界的には増加傾向にあります。また、ライフスタイルの変化などもあり、将来的には地球規模で食肉の消費量は増加すると考えられています。

食肉を増やすためには家畜の生産量を増加する必要がありますが、穀物生産と比べると家畜の生産にはたくさんの水と飼料を必要とし、さらに二酸化炭素の排出量も多いことから環境負荷が高いとされています。

「培養肉」とは細胞を体外で組織培養することで生み出された肉のことです。

培養肉は家畜を育てるのと比較すると地球環境への負荷は低く、畜産のような広い土地も必要としません。

また、無菌的に培養することが可能であることこから、家畜のように病原性の微生物による汚染のリスクもなく、厳密な衛生管理が可能であるなどの利点もあります。

近年は世界各地で培養肉の研究が行われていますが、そのほとんどは形のある肉ではなく「ミンチ肉」です。実際、ニュースにのぼるのは培養肉を使ったハンバーグなどであることが多いです。

しかし、将来的に畜産にかえて培養肉を本格的に活用するためには、肉本来の食感をもつ形のある肉を生み出す必要があります。

そこ東京大学の研究グループは、筋組織の立体構造を人工的に作製してサイコロステーキ状のウシ筋組織を作り出しました。

形ある培養肉を生み出す技術

肉本来の食感は、筋肉に含まれる筋組織の立体構造を作り出すことで、生み出すことができます。

この立体構造を体外で人工的につくるためには、筋細胞を増やすだけではなくて、細胞どうしを融合させて細長い構造に変化させる必要があります。

しかし、筋組織をこのように増やしていくためには、栄養を十分に行きわたらせて細胞を適切に配置していく技術が必要となります。

筋細胞の成熟過程(東京大学)

そこで、研究グループは培養家庭でビタミンCをウシ筋細胞に与えました。

また、厚みをもった培養肉を生み出すために従来のような平面的な培養ではなくて、コラーゲンゲルの中で立体的に培養しました。

すると、筋組織に特有の縞状の構造をもつ、細長い筋組織を生み出すことに成功しました。

さらに、筋細胞の集合体を積層して、特殊な方法を使って培養することで、およそ1センチ角のサイコロ状の立体筋組織を世界で初めて作り出すことに成功しました。

サイコロステーキ状の筋組織(東京大学)

この技術をさらに発展させると、さらに大きな筋組織の作製も可能だと考えられることから、研究グループは肉本来の食感をもつ「培養ステーキ肉」の実用化に向けた第一歩を踏み出したとしています。

将来的には、天然魚から養殖魚に置き換わっていったように、培養肉を使ったおいしいステーキを安く食べることができる時代が訪れるかも知れません。