バイオ研究と仕事術を紹介するネットメディア 5.1 Wed

酵素の合成から単離、保護を細胞内で完結する方法 昆虫ウイルスの「多角体」を利用

タンパク質単離

 昆虫細胞で酵素を合成させて単離と保護まで細胞内で一貫して行う手法を開発したと、東京工業大の上野隆史教授らの研究グループが科学誌「Advanced Materials」で発表した。効率的な酵素合成に利用できるほか、経口薬やワクチンへの応用が期待できるという。

 酵素は化学反応を温和な条件で効率よく行うことができるため、工業的にも注目を集めている。一方、多くの酵素はpHの変化や熱などに弱いため、酵素活性を維持したまま長期にわたり保存可能な酵素固定化技術の開発が求められていた。

 研究グループは、昆虫ウイルスが自らを保護するため、細胞感染時に「多角体」と呼ばれるタンパク質結晶を形成することに着目した。

 昆虫ウイルスを感染させた細胞に、多角体結晶に親和性の高いペプチドを組み込んだ酵素を作り出したところ、ウイルスの代わりに酵素を多角体に内包させることに成功した。

 さらに、多角体を構成するタンパク質のアミノ酸を置換することで、溶液のpH変化で結晶内部から酵素を放出することにも成功した。

 一連の反応は細胞内で完結するため、酵素の精製など煩雑な操作が必要なく、また熱やpHの変化に弱い酵素や低収量の酵素合成にも利用できる。さらに結晶からの放出を制御することで、経口薬やワクチンへの応用が期待できるという。

(via 東京工業大学)